巻1 道士、劉璋。僵鬼として黄泉還るの事

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「兄さん」  微笑んだ孫亮の顔は嬉し気だ。  しかし、耳から飛び込んで来てそれだけいやに鮮明に響くその声に、劉璋は飛び上がっている。何故か、心臓のあたりがはらはらと騒いだ。  孫亮は戸惑っている彼に気付く風もない。  全裸の……その時、初めて自分が全裸であった事に気付いたが……彼の体に手早く深紅の道服を纏わせると、丁寧に彼が祭壇から降りるのを手伝った。  あれが、『僵鬼』か、という声が聞こえた。 『どうみても泰中将ではないか。まるで、生き還られたかのような』  怯えと不安が等しく配合された響き。 『いや、やはり死人だ。見よ、あの肌。緑めいて』  劉璋は自らと彼の手を取る孫亮のそれを較べてみた。自分のそれは、ひどく骨ばり、そして異様に緑がかっている。  だが、それがどうだというのだ。何の感慨も、不思議と湧かない。
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