妄想

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文化祭が終わった。友達と、大満足とは言えないけど、たくさんのブースを回った。友達と分かれた私は、所属する美術部の片付けをしに、美術部へと向かった。そこで、先生に片付けの指示をされた。私は、展示されている絵を片付ける係となった。 その時だった。 男の子と目が合った。その男の子は、 絵の中に居た。 彼はこちらを見つめ、イタズラっ子みたいに笑いながらこちらに手を伸ばしている。その手を掴めば、あちらの世界に行く事が出来る様な錯覚に陥る。ボードに飾られたその絵は先輩の絵だった。私は、その絵に手を伸ばし、ゆっくり、ゆっくり、マスキングテープを剥がした。次は女の子の絵。もう一枚、女の子の絵。また男の子の絵。波打ち際に立つ人の絵。そのどれもが、それぞれの世界に繋がっている様で、私は、丁寧に、丁寧に、マスキングテープを剥がした。何だろう。この感覚。私は考えた。何だか、何処か懐かしい様な、この感覚。私は、右手にグッと力を込め、画鋲を外した。ぼーっとしながら、幾つも画鋲を外していく。メガネのレンズ越しに見たあの世界は、いつか見た夢の様だった。私がある程度絵を片付けたところで、事件は起こった。私は、ボードを運ぶ人とすれ違った。その時、ボードを持つ人がバランスを崩し、ボードが私に覆い被さって来た。 鈍い音がした。彼女の後頭部にボードが当たったのだ。当たり所が悪かったのか、彼女はその場に倒れ込んだ。彼女の長くて艶やかな黒髪が血痕の様に廊下に散らばる。彼女は、朦朧とする意識の中で思った。 「思い出した…全部…道理で先輩の絵…私が好きなはずだ…お姉ちゃんに…会える…決して…空虚な妄想なんかじゃ…無かった…の……
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