P少女

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P少女

2021年11月21日 「P少女」 この日、私はコロナワクチンのため、旭川に帰っていた。ワクチン注射が終わり、札幌に戻るところであった。旭川駅に大きなグランドピアノが置いてある(最近置かれたのかな?)。そこには、「ご自由にお弾きください」の文字があった。どこかアニメやドラマで見るような展開に出くわすことがあればなあと秘かに私は思いながら、まだ出発時間ではなかったので、近くの椅子らしきところに腰を落とした。事前に買っておいた「星の王子様」を手にしながら、そしてわくわくした気持ちを抱きながら。 最初はよかった。星の王子様がどのように登場してきて、どのように物語が展開していくのかまだわからないかんじで、そんな時に、とても大きなピアノの音が耳に流れてきた。それと同時に、私のとなりに老夫婦?が座ってきた。「観客か?」と思いながら、私は、耳に流していたミスチルの「少年」を秘かに消し、目線は本、耳はピアノに傾けていた。それは、一言で言うなれば、「壮大」であった。ピアノ初心者からすれば、「すごい」の一言しかでない。私はどんな子がピアノを弾いているのかとても気になった。勘では少女。小学生ぐらいの。最初は耳に慣れない音が入ってきたから、本に集中できなかったが、そのうち私にとって馴染み深いBGMの如く、耳の間を通り抜けていった。しばらくすると、音が消え、足音がこちらに聞こえてきた。行先は隣に座っていた老夫婦。さぞ褒められるのだろう。これはあれか、コンサートの事前練習的なやつかなど私はその突如現れた状況を理解し始めた。しかし、それは見事に老夫婦、今回は父親の声で打ちこわされた。「下手すぎる」「全然だめ」「もう一回やって全然だめならやめ」と、片手腕をピアノにふり、まるで「早くいけ」といった感じで演奏者に伝える。ところで演奏者は誰だったのか。わたしの勘は当たっていたような感じであった。私は常に、目線を本に向けていたから演奏者の顔を見ることが出来なかったけど、黒いタイツにひらひらのスカートが両目に写った。多分、細身の少女。少女は父親の言葉通り、再びピアノに向かっていった。数秒もすれば再び、ピアノの音が流れてくる。今回はさっきと違う感じの曲。これまた私は「すごい」の一言を心の中で言うだけであった。今回は短かった。また足音が近づいてくる。今回はなんて言われるのか、これは私の気持ちでもあり、少女の心の声でもあったろう。「下手くそ」。こう言ったのは、母親であった。「もう行くぞ」。これは父親。少女は、両親にはさまれるような形で、駅を後にし、その後ろ姿を私は複雑な気持ちで見ていた。
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