17人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、潤子の住む家に着くとエマは思いのほか庶民的な家にホッとすると同時に意外性を感じた。
潤子は、白亜の豪邸か近代的なマンションに住んでいる気がしていたのだ。
潤子の家は古い団地の一室で整頓されていたがお世辞にも綺麗とはいえなかった。エマの家の方が広くて綺麗だった。
「狭くて汚くて驚いたでしょう」
潤子の言葉にエマはブルブルッと首を振ったが、潤子はわかっているという風に微笑んだ。
潤子は母子家庭で金銭的には裕福ではないこと、読者モデルを始めたのも家計を助ける為だったこと、子供の頃はいじめられていたことを話した。
「ママがシングルマザーで水商売なのは事実よ。時々会うパパはお金持ちなのに何の援助もしてくれないの。でも、モデルを始めるきっかけやバイトを紹介してくれたりしたわ。パパは、自分のお金は自分で稼げって言うのよ」
そして、貧しいことを隠しているわけではないけれど、自分が有名になっていくにつれて別のイメージが作られてどこかのお嬢様の様に思われているのが滑稽だと話した。
「だって、私自身はまるで同じ人間なのよ。ママのことを片親だの水商売だの言ってた人がモデルのジュンジュンの同級生だって自慢して自分の仲間のように言うのよ」
パソコンを立ち上げながら潤子はエマをじっと見た。
今までただ美しいと思っていた潤子の瞳が、美しいだけではなく底知れぬ闇を秘めているように見えてエマは身震いした。
潤子の美しい笑顔の裏に、哀しい現実が垣間見えた。
「だからエマも有名になったら皆が手のひら返しで近寄って来るわよ。今はまだ二次審査だから様子を見ているのよ。本当にあいつら卑怯なんだから」
エマは潤子が有名人だから好きなのではない。
潤子の正義感あふれる行動や、潔さが好きなのだ。
エマは自分だけは潤子という人そのものを愛する友人でいようと決心した。
幼い日のトラウマで笑うことのできないエマと、本心からではない笑顔を見せる潤子はどこか似ている。
「笑顔」にはそんな裏表があるようにエマは感じた。
最初のコメントを投稿しよう!