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パソコンからエマの歌声が流れた。潤子は目を閉じて聞きながら涙ぐんだ。
「感動して涙がでちゃう。ねえ、どうして“炎になれ”を選んだの」
「潤子さんが好きだって言ってたから。それに、すごく良い歌だなって思う。歌詩が心に沁みて、私もこの曲大好きになったから」
潤子は、何もかも手にした優雅なお嬢さんじゃなかった。
話を聞いていてなぜ潤子がこの曲を好きなのかがわかった気がした。
彼女も何かと戦っているのだ。
そして、誰かに傍にいて欲しいと願っているのだ。
エマは前よりも一層潤子のことが好きになっている自分の気持ちに気づいた。
「でしょ!この歌本当に良い歌よね。絶対二次審査もパスしようね。でね、二次審査の戦略なんだけど、私のSNSフォロワー数が五十万以上あるのよ」
潤子がそう言いながらエマに顔を寄せるとパシャリと写真を撮った。
エマは写真を撮らない。集合写真でも人の後ろに隠れて映らないようにする。エマは焦った。
「じゅ、潤子さん、ダメだよ。私写真は無理」
満面の笑みを浮かべる潤子と長い髪で顔が隠れたエマが写っている写真を見せながら潤子が言った。
「わかってるって。エマはいつも髪で顔を隠しているから大丈夫。内気で恥ずかしがり屋で無口なエマが歌となると別人になるっていうギャップ萌えを狙うんだから」
潤子は「炎になれ」のCDジャケットと一緒に写真を撮ったり、おしゃれな服に着替えて写真を撮ったりしてから、自分のSNSを素早く更新した。
とたんに潤子のスマホがピコピコ音を立て始めた。
「今日は音声オンにしたの。いいねがついた通知の音だよ、すごいでしょ」
鳴りやまない音、パソコンの画面を見ると凄まじいスピードでいいねの数が上がっていく。
それを満足げに眺める潤子は策士の顔をしていた。
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