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夢か……榊原奏快(さかきばらそうかい)は窓から差し込む朝日に目を細めながら体を伸ばした。
少し休むつもりが朝まで眠ってしまったらしい。
白衣のしわを伸ばしながら立ち上がるとペットボトルの水を飲んだ。
体に染みわたるまろやかな水は、妙快山の地下水を非加熱でボトルにつめたもので妙快製薬の人気商品の一つでもある。
妙快製薬は創業三百年の老舗製薬会社である。
日本では中堅に位置する製薬会社で漢方薬や健康食品を販売している。
奏快は現社長、榊原燦快(さんかい)の一人息子で現在二十四歳になる。
中学二年の時自分の意思でアメリカ留学し、飛び級で大学に入学した。
製薬開発にかける情熱は人一倍でアメリカでは様々な成果を残してきた。
恩師ホワイト教授は奏快の能力を高く評価しており日本に戻ることを惜しんでいたが、奏快は妙快製薬の改革をめざして日本に戻った。
現在は妙快山にある研究所で抗がん剤の研究をしている。
漢方薬でがんを治すことはできない。
補完治療としての漢方薬の使用については奏快も認めている。
だが、漢方薬中心の製薬会社など時代遅れだ。
奏快はがんや認知症の新薬を開発すべきだと考えている。製薬会社は国際的な規模で考えなくては生き残れない。
このままでは海外の製薬会社との競争に負けてしまう。そう主張する奏快に父燦快は言った。
「妙快製薬は、歴史ある漢方薬の会社だ。漢方薬を作らなければ妙快製薬ではない」
「お父さん、病院に納品する漢方薬は利益も出ているから良いと思います。でも市販薬の妙快丸など売上げも小さいし、あのラインを別の薬に」
「だまれ、妙快丸を生産しないなどということは、二度と口にするな」
奏快は父に怒鳴られた。
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