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江戸時代から生産されている喉の薬妙快丸は、昭和の時代なら各家庭に常備薬として置かれていた。
しかし現在は忘れ去られて売り上げも低迷している。
だが、創業者榊原妙快(みょうかい)と妻の滝が作り上げた妙快丸は榊原家にとって特別な存在なのだ。
奏快は「信仰」に近い感情を両親が持っていることが嫌だった。
製薬というのは、科学的で冷静な目を持ち、病気のメカニズムを徹底的に解析、分析しなくてはいけない。
そして何百万という候補から薬のタネを選びぬき、どのように使えば効果が出るか実験を繰り返す。すべて理論的に説明のつく研究である。
もちろん研究過程に「勘」や「思い付き」というものは存在している。
しかし「奇跡」や「祈り」のようなものは存在しない。
妙快製薬のロゴマークは水の竜である。
水竜はご神体として会社で祀られている。
出社すれば必ず社員は神棚に祈りを捧げなければいけない。
「お滝様」と呼ばれる巫女に清めの神事を行ってもらわなければ、妙快山の滝に近づくことはできない。
そして社訓は「笑顔失いし者をないがしろにするべからず」という製薬や商売とはかけはなれたものである。
創業者の妻お滝が熱心に信仰した水竜の教えだと伝えられる。
奏快はどこか新興宗教じみた神事が行われることを嫌っていた。
だが、両親はこの件に関しては、「お前にもそのうちわかる」というだけで、それ以上意見をすることは許されなかった。
それでも父は、新規の研究部門を設け高額の予算をつけてくれた。
奏快はまずは成果をだして認められることを目指していた。
成果を出せば父の考えも変わるはずだ。奏快はほとんど泊まり込みで研究を続けていた。
昨日は期待の持てそうな薬のタネを見つけ、ほっとして眠ってしまったのだ。
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