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もっと話していたかったが、午前八時を過ぎていた。
そろそろ出勤してくる社員もいるはずだ。シャワーを浴びて着替えなくてはならない。
奏快は名残惜しそうに電話を切ると、シャワー室へ向かった。
廊下の壁に目をやると、「ドラゴンヴォイスコンテスト」のポスターが目に入った。創業三百年の会社の記念行事として企画された、歌手を発掘するコンテストだ。
奏快もこのコンテストには審査員として参加する。一般の人々に、妙快製薬の名前を広める良いチャンスだと考えている。
イラストで描かれた水竜が夢の中の水竜に重なった。
奏快は夢が生々しく感じられて身震いした。
あの水竜を知っている。
自分の記憶の中に竜と出会ったおぼろげな映像がある。
いや、そんなはずはない。
竜などというものは想像上の神獣で遭遇する筈などない。
でも、なぜあんな夢をみたのだろう?
それに、あの滝の傍にいた娘の美しい声が耳に残っている。
夢に音はあるのだろうか? 夢の中の音の記憶が耳に残るなどありえない。
だが、やわらかな低音が奏快の脳の細胞に刻み込まれたようにこびりついて離れない。
透き通った高音は奏快の体を抱きしめるように体の周りを漂っている気がする。
奏快は音の記憶を消そうと、強く頭を振った。
早くシャワーで洗い流そう。奏快は乱暴にシャワー室に飛び込んだ。
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