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3.落とした応募書類
轟エマは焦っていた。
学校帰りにポストに投函するつもりだった郵便物がなかった。
もしも落としたのなら、学校で落としたのかもしれない。
あれを誰かに拾われたら大変なことになる。
エマは帰宅する生徒達に逆行するように、速足で高校に戻った。
すれ違いざまに、三人組の女子生徒の会話が聞こえてきた。
「ドラゴンヴォイスコンテスト、コーラス部のゆかちゃん応募するんだって」
「ああ、あの製薬会社がやるっていう」
「歌手デビューできるっていうやつでしょ」
「それそれ、てんぐ#さんのCMソング歌えるらしいよ」
「てんぐ#さんのプロデュースならスター間違いなしだね」
「ゆかちゃんなら歌上手いし、可愛いし」
「いいなあ、歌の上手い人。私なんて全然無理」
「あはは、私もダメだな」
女生徒たちの明るい笑い声が、引きつりながら歩くエマの耳に届いた。
コーラス部のゆかちゃんなら皆は納得するだろう。
ゆかちゃんがソロを歌った県内の合唱コンクールでうちの高校は銀賞をとった。
だが、存在を消す様に、影の様に、めだたないようにクラスの隅にいるエマが、歌を歌うなど誰も思わない。
まして、ドラゴンヴォイスコンテストに応募するなどという大それたことをするなど誰も思わないはずだ。
だからこそあの書類、ドラゴンヴォイスコンテストの応募書類が誰かの目に触れれば大変な騒ぎになる。
もう、学校に通えない。
エマは落とした応募書類を回収するため高校へと急いだ。
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