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男 「もし無人島にひとつだけ持っていけるとしたら」
極限状況においても、どうしても外せない嗜好品とか、
時間をつぶすための愉しみとか、
その人の人生において欠かせないもの、
手元に置いておきたい大切なものを選ぶと思うんだ。
だからね、俺は選びました。おまえを。
おめでとう!俺はおまえを一番愛してる!
女 …あのさぁ、まず確認したいんだけど、ここはどこ?
男 無人島?
女 どうして無人島にいるの?あんたと、私が。
男 あ、ほんとだ。2人も人がいたら、もう「無人」じゃないよね。
これは、ただの「島」だ。
女 …そういうことじゃなくて!
どうして無人島に連れられてきてるのかってこと!
男 え、だからさっき説明したじゃん。
男女 「もし無人島にひとつだけ持っていけるとしたら」
女 それはさっき聞いた。
男 だってさぁ、おまえ、…素手で処理できるじゃん。
俺、あれだけは、どうしても無理なんだよぉ…カメ!
女 はぁ?カメ?そんなことのために、
わざわざ無関係な私が無人島に連れてこられたっていうの?
男 いや、無関係じゃないよ。愛してるって言ってるじゃん。
俺の人生においては、永遠のセンターポジション!
絶対的メインヒロインです!
女 …ねぇ、私、先週言ったよね?「もう別れたい」って。
男 俺も言ったよ。「別れたくない」って。
女 あんたのそういう身勝手なところが、
もう我慢できなくて「別れたい」の。
しかも「一番」とか「センターポジション」とか「メイン」ってなに?
その発言って、明らかに他にも女がいるよね。しかも複数。
男 まぁ、そこは否定はしないけど…
最低3人はいないと「センター」になれないもんね?
女 ホント最低だよね、あんた!
女 「もし無人島にひとつだけ持っていけるとしたら」
…どうしてそこに破局済みの元カノを連れてくるかなぁ?
男 おっ、俺は別れたなんて思ってないからな!
女 うるさい。そこはナイフとかライターとか、
無人島サバイバルに必要なものを答えるところでしょ。
それなのに、あんたのせいで巻き込まれ、
わざわざ無人島まで連れてこられて、
こちらとしては、非常に迷惑極まりないんですけど。
男 いや、だって、俺、ナイフ持ってても戦えないもん。
でも、お前なら素手で処理できるじゃん…カメ…
女 マジで最低だよね、あんた!
面倒なことは、いつも私に全部押し付けてきたよね。
男 恋人が困ってたら、助けるのは当たり前のことだろ!
女 あんたとは、もう他人です!
男 はぁ?人が下手に出てりゃ、なんだよその態度。
あのさ、ここがどこだかわかってる?
無人島だよ、無人島。
おまえ、俺と別れたら一人で生きていけないよ?
今すぐ土下座して謝るなら、考え直してやってもいいけど。
女 「もし無人島にひとつだけ持っていけるとしたら」
…実は私も、ここに連れて来られる前に同じ質問をされたの。
男 へぇ、なんて答えたの?
女 「毒」
男 え?なんで?無人島に毒なんておかしいだろ。
誰もいないのに、誰を殺すんだよ。
女 うん…最初はね、無人島で一人で生きていくのを
諦めちゃった時のためにって、考えてたんだ。
でも、実際に無人島に連れてこられて、
あんたも一緒だってことがわかった。
だったら、話が違う。
ほら、ここなら誰もいない、誰も見ていない、誰も知らない。
無人島から一人消えたって、誰も気づかない。
だって、元々、人なんていないんだもの。そうでしょ?
男 …あ、あぁ。
女 …ねぇ、どうしてあんたは「毒」と聞いて、
私が「誰か」を殺すと思ったの?
ここは無人島なのに?誰もいないはずなのに?
それって、あんた自身が「私」を「殺すつもり」で
ここに連れてきたからじゃないのぉ?
男 …。
女 プライドだけは人一倍高いあんたが、
女に振られるだなんて、相当悔しかったみたいね?
思い通りにならないのなら、殺しちゃおうって?
男 …あ、愛してるんだ。本当に。
女 …私たち、相性は最悪だけど、
お互い、考えてることは一緒だったみたいね。
男 …ぐっ、ごほっ。ごほぁあっ。いつの間に…毒を…!
女 さようなら、お馬鹿なカメさん。
地面に這いつくばって死ぬのは、あんたの方よ。
男 …って感じで、俺を殺してくれないかな!
ラストシーンは、俺が毒で床にのたうち回る姿を
極上の微笑みで見下してほしいんだ。
女 えぇ、マスター、まだやるんですか。
私のデータによると、もうすでに194回、
「無人島で毒殺」設定はプレイ済みです。
男 だってさ、せっかくの不老不死だぜ?
人生楽しまなきゃ、つまんないじゃん。
女 死を繰り返すのが、生きる醍醐味っていうのも、
変な話だと思いますけどね。
男 あーあ、あの日、カメなんか助けなきゃよかったんだ。
女 …またその話ですか。
私のデータによると、もうすでに4545回お話されています。
男 おまえのデータにしっかり残るよう、何度でも言ってやる。
あの日、子どもにいじめられてたカメを助けたせいで、
竜宮城の乙姫による、お礼と称した拉致監禁。
昼夜問わず繰り広げられる「宴」の折檻に、
もはや精魂尽き果て、足腰もついてゆかず、
必死に頼み込んで逃げ帰ったが、すでに地球の文明は滅びてた。
女 …数百年前に流行したウイルス感染により、
この島どころか、地球上の人間は1人も生き残っておりません。
男 絶望の中、開けた玉手箱には、不老不死の煙の罠。
なんだよ、あのサディスティック女!
どんだけ俺を苦しめれば満足するんだ。
…というわけで、俺は毎日楽しく死ぬことにした!
女 ドS乙姫とドМ浦島太郎で、
実はベストカップルだったと思うんですがね。
男 …ん?
女 いいえ、何も。
人類滅亡後、数百年は経過していたにもかかわらず、
こうしてヒューマノイドの私を再起動していただき、
その節は大変ありがとうございました。
男 うん。
まぁ、地球上に一人ぼっちっていうのも、退屈だからな。
ヒューマノイドのおまえと、不老不死の俺。
こうやってあらゆる死に方を模索するのは、
長い暇を潰すにはちょうどいい。
さぁ、次はどんな設定で俺を殺してもらおうかな!
女 そうですね…では、次はカメ責めはいかがですか?
男 お願い!カメだけはやめて!
もう一生カメは触らないし、助けないって決めたの!
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