14話「血の呪縛」

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「おはようございます! 急にお休みを頂いて申し訳ございませんでした。今日からまた頑張ります!」  元気よく、挨拶をしながら編集部へと入る。自分ではいつも通りのつもりだったが、声が少し揺れている気がした。  そして、一斉に突き刺さる皆の視線にゴクリと生唾を飲む。その場で固まってしまっていると、私が新人の頃に教育係をしてくれた先輩がツカツカと寄ってきて真剣な面持ちで言う。 「四葉、あんたあの男の子とは別れたの?」  あの男の子とは、勿論ジャックくんの事だ。別れた、なんてとんでもない。私は彼と生きていくと決めたんだ。 「いいえ、別れていません。そんなつもりは全くありませんので」  キッパリと告げる。さて、これで一体どうなるだろうか。でも私は嘘をつかないし、ジャックくんと別れるつもりもない。  すると先輩は、スッと右手を上げて── 「それでこそ四葉だ!」  そう言って私の肩をバシバシと叩く。ちょっ、結構痛いんだが?? 今日はよく叩かれるなぁ。 「四葉、アタシ達はあんた達のコト応援してるからね!」 「せ、先輩……、」 「頑張ったね! 偉いぞ四葉! これからも頑張れ!」 「は、はい! ありがとうございます!」  皆がうんうんと頷き、優しい眼差しを向けてくれる。ああ、私はいい仲間に恵まれたな。大切な仲間達を見回すと、彼女達は口々に言う。 「だってあんなに素直でかわいくてカッコいい男の子が悪い子のハズないじゃないですか!」 「そうそう、純粋な感じでかわいかったもんね!」  ……ん? いや、"かっこかわいい=悪くない"の等式はおかしい気がするのだが?? 「それに何より、あの麗しの春日井先生が誤解だと仰るんだもの。ならそれを信じるだけよ!」 「ああ、春日井先生……もう直ぐ父親になるというのに美しい!」 「春日井先生はー」 「春日井先生がー」  相変わらず春日井先生人気が凄まじいな、この職場。  なんだろう……私と皆の友情とか絆よりも、春日井先生が美しいという事の方がスゴいみたいで泣けてくるんだけど??  目からしょっぱい水が流れそうになるのを堪えていたら、私達を遠目に見ていた編集長が口を開く。 「ちょっとちょっと~、イケメンならここにもいるのにー」  そんな不満を漏らしたが、皆の耳には聞こえていない様子だった。  席につくと、隣のクミンちゃんが「センパイ」と声をかけてくるので顔を向ける。 「ワタシもセンパイ達の味方ですからね! もし何か困った事があったら相談して下さい!」  自分の胸をトンッと叩く後輩の姿が何とも頼もしく見える。  よかった。たとえ春日井先生のおかげだったとしても皆が私と、そしてジャックくんの事を受け入れてくれている。この事を早くジャックくんに伝えたいな。きっと彼は満面の笑みで喜んでくれるだろう……。
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