14話「血の呪縛」

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 ちらし寿司が入っていたタッパーを洗いながらふとお風呂掃除をしているジャックくんに訊ねる。 「勉強の方はどんな感じ?」  今日から彼は本格的に高卒認定試験の勉強をする事になったのだが、なんていうか……大丈夫だろうか?  ジャックくんはその、あんまりお利口さんなタイプではない気がするので、先生のお手を煩わせているかもしれない。 「センセー、おもしろいんだぜ」  掃除を終えたのか、彼は台所に出てくるとそう言っていたずらっぽく笑う。  しかし、先生が面白いとは問いかけに対して適当でない答えだ。 「センセー、オサライとか言って小中の問題集(もんだいしゅー)やらせんだもん。オレ、高校(こーこー)は行ってねーけど、小中は行ってるから今さらだよな!」  ……うん? それはまぁそうなのだが。なんだ、この違和感は? 「ジャックくんの今の実力を知りたかったんじゃないのかな?」 「あー、センセーもそんなこと言ってたかも」 「それで? 結果はどうだったの?」 「どうって、100点満点(マンテン)だったけど?」 「え?!」  100点満点?? え? 100点満点?? いくら小中の問題集とはいえ満点とは……すごくないか??  これってもしかして……。 「ジャックくんって、かなり出来る子なのでは??」  ポロリとそう漏らすと、彼はキョトンとする。 「それもセンセーおんなじこと言ってた。でもなー、オレから言わせれば一回習ったとこじゃんって話なんだけど? オレ、イヤなこととかどーでもいいこととかはすぐに忘れるけど、大抵(たいてー)のことは一回聞いたり、やったりしたら覚えちまう。みんなそーいうモンだろ? センセーもそうだって言ってたし!」 「……い、いやいやいや! それ、だから! ジャックくんと春日井先生がスゴいの!」 「……ん? んん? そーなの??」  驚いている私を見て、納得のいかない表情を浮かべるジャックくん。  だけど、本当は驚く事ではないのかもしれない。だって彼は幼い頃からずっと独りだけの力で生きてきた。それはやはり頭が回り、利口でないと出来ない事だ。常識知らずな所もあるが、それも教えれば直ぐに理解するだろう。 「……ねぇ、大学とかには興味ない?」  彼は頭がいい。学ぶ機会が多ければ多いほど、大成するだろう。  大学の費用くらい私が工面する。だからジャックくんには学んで、視野を広げて、多くの人と関わりを持って── 「ない。まったくない。オレ、勉強(べんきょー)嫌いだもん。大学とかまじ勘弁(カンベン)してくれってカンジ」  ……おっと、そうくるか。 「勉強するくらいなら働いて金をかせぐほうがぜんぜんいい! オレ、早く資格とって働きたい。……それってダメな考えかた?」  駄目なんかじゃない。興味がないのに無理矢理大学へ行かせても意味がないだろうし、何よりジャックくん自身が働いて自立したいと強く思っている。  それなら、私は彼の意見を尊重して支えるだけだ。 「ううん、それでもいいと思う。もし大学で勉強をしたくなったら、その時に考えればいいものね」  そう言うと、彼は満足そうにニコニコとする。 「ヒメコさん、オレのこと否定(ひてー)しないで受け入れてくれてまじサンキュ。オレ、ワガママなことばっか言ってるかもだけどとにかくがんばるから! そんで、はやく一人前になってヒメコさんのご両親(りょーしん)に挨拶しに行くからな!」 「うん? ご両親に挨拶って……」  それってつまり、そういう事だよね? ジャックくんは私と──。 「センセーと奥さんみたいな夫婦(ふーふ)にオレ達もはやくなりたいな!」  あー、もう。分かってるのかなぁ、この子は。それってプロポーズだよ?  8つも年上のおばさんに軽々とそんな事をして……ほんと、かわいいなぁ。
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