15話「晴々な日々」

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 ジャックくんは高卒認定試験に向けての試験勉強をしながら、そのに電気工事士2種の勉強をし始めた。  テキストは勿論、今時の若者らしく動画サイト等もフル活用して学んでいた様だったが、私としては"そんなに急がなくても、高卒認定試験に受かってからにすればいいのにと……"と思っていた。だけど息抜きと言われてしまえば黙っているしかなく、彼を見守る事にした。  するとジャックくんは「どんなもんか1回試してみたい!」と言って5月の筆記試験に臨み、そして合格。その後に7月に行われた実技試験にも合格してしまのだから……ほんと、驚きだ。  本人曰く「筆記(ヒッキ)暗記(アンキ)だし、実技(ジツギ)候補問題(こーほもんだい)が事前に発表(はっぴょー)されてっし!」とのこと。  ダイニングテーブルの上には握り寿司をはじめ、ポテトサラダや唐揚げなどが並んでいる。お寿司以外はヤコちゃんの手作りで、頬が落ちる美味しさだ。 「10月に1種の方の試験も受けると聞いているが、そちらの方の勉強はすすんでいるだろうか?」  先生の問いかけに、ジャックくんは口の中に詰め込んだ物を飲み込んでから答える。 「はい! 試しなんて言わずに、ゼッテー合格(ごーかく)するよーにがんばります! ……つっても、1種の方は試験にうかっても、3年以上(いじょー)実務経験(ジツムけーけん)がないと免許取得(メンキョシュトク)ってのにはならないみたいっスけど!」  1種は2種に比べて合格率は低いらしいが……ジャックくんなら大丈夫な気がする。彼は環境さえちゃんと整えば、器用に何でもこなせるオールラウンダーだ。  目標に向かって情熱を迸らせて頑張る彼はとてもかっこよくて、そして羨ましく思える。私はキラキラとしている彼を見ていると、過去に置いてたきた"小説家になりたい"という幼い夢を回顧する。……だけど、さすがにもうその夢は追えないな。 「資格は取っただけで満足しちゃ駄目よ? その後ちゃんとお仕事に繋げなくちゃね」  先生のお皿にサラダを取り分けながらヤコちゃんが噛んで含める様に言うと、ジャックくんはコクコクと頷く。 「求人(きゅーじん)とか調べたらけっこーあるんスよ! 経験不要(けーけんふよー)でもオッケーとかあるし!」  ……ジャックくんは着々と自立の道を進んでいる。それはとても素敵な事なのに、少しだけ、ほんの少しだけ寂しいな。  若い彼は自立して、いずれ私みたいなおばさんから離れて行ってしまうかもしれない……それがとても怖くて怖くてたまらない。  その時、ベビーベッドの中で眠っていたハルヤくんが泣き始める。席を立ちかけたヤコちゃんを制して、先生がハルヤくんを抱っこしてあやす。  その様子を見ていると、もしかして赤ちゃんがいたらジャックくんは……なんて重くて馬鹿な事を考えてしまった。
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