61人が本棚に入れています
本棚に追加
/181ページ
「赤ちゃん、かわいかったなぁ~」
アパートに戻ったジャックくんはニコニコとしていて、何度もハルヤくんの事を話題に出す。
「……ジャックくんの弟みたいなものだもんね」
そう言うと、彼は更に笑みを深める。
「いやいや、弟って。そりゃさすがに言いすぎだろ~ちげぇって!」
違うと言いながら満更でもない様子で、むしろそう言われるのを待っていたのではないだろうか?
……それにしても赤ちゃん、か。長年ヤコちゃんに恋していた私は、"子どもを産む"という事を深く考えてはいなかった。
でも今日、小さくてか弱くてかわいい命を目にして、胸がキュ~ンと締めつけられた。そして、彼──ジャックくんとの赤ちゃんがほしいなと強く思ったんだ。……赤ちゃんができたらジャックくんは私から逃げられない、そういう邪な気持ちも確かにある。
だけどもし、ジャックくんが私の側からいなくなったとしても彼の血の引いた子どもがいるのなら、その子の為に私は必死に生きていける。それは確信している。
「ヒメコさん、晩メシどうするよ? 昼が豪勢だったから、食べるとしたらオレはカップ麺とかでいーんだけど??」
呑気に言う彼の後ろから、私はギュッと抱きつく。
「ヒメコさん?」
ジャックくんは振り返ったみたいだが、私は彼の広くて固い背中に顔を押しつけたままだ。
「……え? もしかして、甘えてくれてんの?? マジで?? 超かわいいじゃん! うしろからじゃなくて、前からハグしよーぜ!」
お腹の前で組まれた私の腕を楽しげに外そうとするジャックくんだが、そうはさせまいとグッと力を込める。……真正面からなんて、恥ずかし過ぎる
「ね、ねぇ……ジャックくん、あのね、その、ええと、」
「……なに?」
ジャックくんが、口ごもる私を不審がっている。はやく、はやく言わないと……!
「ゆっくりでいーよ、ちゃんと聞くからさ」
焦る私とは裏腹に、ジャックくんは穏やかな声で私の腕をゆっくりと擦ってくれる。
ああ、やっぱりこの子は優しいなぁ。心が凪いでいく。
「ねぇ、ジャックくん」
「うん? どうした、ヒメコさん」
「……今から、シよう?」
私からこうしてお誘いするのは、初めてだ。断られたらどうしよう? 心臓がドキドキを通り越してズキズキしてくる。
「……あー、」
ジャックくんは低く唸ってから、こう続けた。
「それはムリだわ」
頭が、真っ白になる。
最初のコメントを投稿しよう!