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拒絶された。
こういうのは気分とかそういうのが大切だとは分かっているが、シンプルに傷つく。
「……そっか、」
ジャックくんから離れて呟くと、彼はこちらをくるりと振り返る。そして──、
「ゴム、もうなかったから。今から買ってくるから、シャワーあびてまってて!」
にっこりと笑う。
「……え、あ、そういう意味、」
「そーいう意味って、どーいう意味??」
「私とするのが、もうムリなのかと思って……」
消え入りそうな声で言うと、ジャックくんは眉を吊り上げる。
「はぁ? なんだそれ。んなワケねーじゃん。好きな女からのオサソイとか最高だし。つか"もう"ってなんだよ、なんかその言い方すげーイヤ。いずれムリになるみてーな言い方だろ、それ」
まさにそう思っているので黙っていると、彼は私の気持ちを察した様だ。
「……マジかよ。え? なんでそんな風に考えんの? オレ、ヒメコさんのこと、不安にさせてる──よな、やっぱり。ワガママなのは分かってるけど、もう少しだけまって! オレ、ぜってー就職してもっと金もいれるから!」
……んー、察しきれてないなぁ。そういう事じゃないんだよねぇ。
「頑張ってるジャックくんはワガママなんかじゃない、輝いててかっこいいよ。それに、お金は気にしなくても大丈夫。……ただね、どんどん成長していくジャックくんを見てるのは嬉しいけど、少し寂しいんだ。自立して、外の世界を知ったら、私の側からいなくなっちゃうかもしれないって……そんな事を考えちゃうの。ワガママなのは、私の方だね」
彼は、私の顔をジィっと見つめる。
「あはは、ごめんね。重いよね、私」
本当は情けなくて、涙が出そうになったけど……それを隠す様に笑って俯く。
すると、彼は私の顎を指で掬い上げて、目を合わせる。
「無理して笑うなってば。それに、重いのはオレも同じだからさ。……オレはヒメコさんと一緒にいたい。その為なら何だってする、何だって頑張る。だけど、まだまだあんたには追いつけないから……ヒメコさんに飽きられて、捨てられるかもって毎日ヒヤヒヤしてんだぜ?」
「わ、私がジャックくんの事を捨てるはずないでしょう?!」
「オレだってあんたの側からいなくならねーし! あのさ~、オレがどんだけヒメコさんのことを好きかおしえてやろーか? ……センセーのとこのハルヤ、」
……何故今、ハルヤくん??
「あいつを見て、オレ……あんたを孕ませてやりてーって思った。惚れた女との子どもがほしい、そんなこと考えたのははじめてだ。それと、子どもができたらあんたはオレから逃げらんねーって、まぁそんなゲスいことも考えたんだわ。な、重いだろ?」
……なにそれ? なにそれ!
「私も、全く同じ事を考えてたよ!」
ジャックくんが私と同じ不安や願望を抱いてくれていた事が素直に嬉しく思う。心もちゃんと繋がっていると、そう確信出来た。
「そ、そっか、ヒメコさんも同じなんだな! へへ、そりゃあ気分いいぜ! ははっ!」
安心した様にへにゃりと笑っていたジャックくんだったが、やがて顔をスッと引き締める。
「オレ、ヒメコさんが大切だからちゃんとしたいって思う。惚れてるからって理由で軽率に子ども作るのはダメだ。もう少し……もう少しだけオレがまともになるのをまってほしい」
彼は真剣だ。真剣に私や自分の事、そしてこの先の事を考えている。
「うん、そうだね。私もジャックくんが大好きで大切だから、将来の事は真面目に考えたい!」
「そっか。ならまずは──」
……ん? まずは??
「ゴム買ってくるな!」
あー、ああ。そういう話をしてたなぁ。あれ? してたっけ??
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