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1話「失恋、雨時々晴れ?」
珍しくアラームが鳴る前に目を覚ました。だからといって早め早めに行動なんてするはずもなく、布団の中で本来起きる時間までゴロゴロと過ごす。
何気なく枕元のスマホを手に取り画面を確認してみると、これまた珍しく“友人”からメッセージが入っていた。飛び起きて、ベッドの上で正座をする。
女子校時代に友達になった“ヤコちゃん”は私と同じ位……いや、それ以上に淡白で喜怒哀楽が乏しく、筆不精だ。そんな彼女から連絡がくるなんてかなりのレアだ。あまりの嬉しさにドキドキと高鳴る心臓、深呼吸してから画面の彼女の名前をタップする。──その時、一抹の不安が確かに胸を過ったが気がつかないフリをした。
“結婚しました”
彼女らしい簡素な文面。それを食い入る様に見つめる。“結婚”という2字は私達28歳のアラサー女にとっては身近というか、意識せざる得ないというか、生々しいというか……とにかくそんな言葉だ。だけどヤコちゃんには全くそんな気配はなかったじゃないか。
全く、は言い過ぎか。スマホを手にしたまま思いを馳せると、ヤコちゃんは異性の幼馴染やいとこと仲が良いと言っていた気がする。でもそう語る彼女からは恋愛感情なんてものは微塵も感じなかった。どちらかというと彼女は恋愛や結婚に対して憧れや興味などなく、独身を貫くとさえ言っていた。なのに急に“結婚しました”って、もう既婚者になっているのか。変わっていた子ではあるが、もっとこう……事前に何かあっただろうに。
ごちゃごちゃと考えてみたが、ヤコちゃんは嘘を言う人ではないのでこの報告は偽りではなく本当なのだろう。彼女が“結婚しました”というのなら結婚したんだ。それってつまり──。
「……私、失恋したんだ」
こうして私の12年にも及ぶ初恋にして片思いは唐突に、そしてひっそりと終わりを迎えた。
布団をかぶり、唇を噛みしめ、泣いた。悲しいだなんて、馬鹿みたい。いつかこんな日がくるなんて分かっていた事じゃないか。私とヤコちゃんは“ただの友達”で“同性”で……絶対に結ばれない。それでもいいからと勝手に想い続けてきたのは自分じゃないか。だから悲しいだなんて、泣くだなんて、おかしい。
“ヒメちゃん”と私を呼ぶヤコちゃんの姿を瞼の裏に浮かべ、どうしようもなく涙を流し続けた。
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