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歯が折れるかというほど食いしばった顎を和らげたジャンは光沢帯びる刃の背をひと撫で。研ぐのをやめてゾフィに目を向けた。
「あいつらだって、死ぬ日が来るかもしれないことくらいは覚悟していたさ。でもこんな結果でまとめられちゃ、あんまりだ。
少なくとも俺の同志においては立派な殉職だった。そう証明するためにも、この街をグリザイユや闇捕虜ごと無かったことにさせるわけにはいかない。
だからお前にはついてきてもらう、正式な捕虜として。なにが何でもだ、分かったな? 自害しようもんなら、俺がただじゃ死なせないぞ。覚悟しておけ」
吐き捨てるようにそう言ったあと深呼吸をしたジャンは、レーションを取り出すとその蓋をナイフで開ける。そして改めてゾフィを見据えた。
先程から瞬きもせずジッと様子を窺う姿に違和感を覚えたからだ。
「……おい。言葉がわかるのか?」
普通なら拘束された状態で、知らない言葉を散々言われ嫌悪された目つきと声色でナイフを研いでいる姿が目に入れば、恐怖の一つも感じるだろう。
でも、その微動だにしない姿はいったい何が原因なのかジャンは考えた。
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