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それは、言葉が理解できるか完全にイカれているかの二択だ。
もし分かるとしたら、それなりの地位にあった家の子供だということ。いかにザガートが焦っていたのか、そして必死であったのかが窺えることになる。
「……わかる」
人を殺したとは思えぬほどにあどけない子供の声がジャンの耳に入る。
このとき彼の胸には、やけに憐憫たる思いが立ち込めた。それは自らもこの年頃の娘がいるからに他ならないだろう。
こんなところに生まれなければ、今頃は友人となんともない日常を過ごしていたやもしれない。他の子供と同じように、お菓子や漫画の話でも出来ただろう。そんな地位に生まれた子なら尚更だ。
そして彼の口からは、ため息混じりの言葉が押し出された。
「……ああそうかい、そりゃ良かった。誰かがいるってのに、独り言ってのは辛いからな。
ほら……食えよ。お前の分だ。悪いが手を自由にさせるつもりはない。食いたきゃ口を使え」
そう言って地面をカタカタ滑らせ、レーションをゾフィのもとへ。
「……ん、ところで名前は?」
「……ゾフィ」
「俺はジャンだ。年は、いくつだ?」
「わかんない」
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