【 土佐の山奥 】

1/1
前へ
/17ページ
次へ

【 土佐の山奥 】

 人嫌いな僕は、東京の人混みを避けて、全国でも空家率の高いこの土佐の山に住むことに決めたのだが、いざ一人で住み、3年も経つと、やはり人恋しくもなるもんだ。  お昼ご飯をひとりで食べるより、ふたりで食べた方が楽しいし、作り甲斐もある。  彼女がお昼にこの家に来るようになったのは、1週間前。  僕が山に山菜を取りに行った時のことだった――。  ある大きな木の根元に、彼女が震えながら丸まっているのを発見した。  着ていた白のワンピースの服は薄汚れていて、顔も頭も手も足も、土をかぶったようだった。  心配して、彼女に声をかける。 「ど、どうしたの……? こんなところで、大丈夫……?」 「うぅぅ……」  彼女の僕を見る目は、初め正直怖かった。  瞳の色はシルバーで、少しつり目がかっていて、噛み締めるような口元から八重歯が覗く。  彼女が道に迷ってしまった『迷子(まいご)』だと思い、僕は手を差し伸べた。  しかし、その少女はその手を『パシッ』と払い除ける。  一瞬にして手の甲に、彼女の爪あとが残った。 「大丈夫、安心して。君に何も危害を加えたりしないから。迷子になっちゃったんだよね。さあ、僕と一緒にお家へ帰ろう」  すると、彼女のお腹が『グルル』と鳴った。  彼女が何も食べずに迷子になっていると思い、胸ポケットに入れていた飴玉を取り出し彼女へ差し出した。 「お腹空いてるんだね。飴玉あるから、舐める?」  飴玉の袋を開けて彼女に渡すと、素直に受け取り、一度鼻の前にやり「くんくん」と匂いを嗅ぐ仕草をしてから、ガリガリとその飴玉を(かじ)るようにして一瞬で食べてしまった。  食べ終わると彼女は僕の胸ポケットの方を見ている。 「あっ、まだあるよ。もっと食べる?」 「ぐぅぅ……」  それが彼女との初めての出会いだった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加