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一色
少しの沈黙の後、レッドは「そうか」とそれだけ言った。他のヒーローたちは静かにレッドの半歩後ろに立っている。
「ここの扉、入りづらかっただろう」
脈絡のない彼の言葉に戸惑いつつも、私は素直に頷いた。
派手な配色に大きな筆文字が描かれた窓のない扉。
「はい、すごく」
「だろうな。どう見ても詐欺っぽい」
レッドは真っ直ぐに私を見る。
「扉だけじゃない。ホームページも、社名も、コンセプトも全部怪しい。普通ならこんなとこ近寄らない。人生で避けて通るべき場所だ。きっと今までの君もそうしただろうな」
そして、はっきりと声を響かせた。
「それでも君はあの扉を開けた」
――その言葉が、心臓を掴んだようだった。
「十分だ。今の君はもう昔の君とは違う」
身体が揺れるくらいに鼓動が大きく、速くなる。
彼は静かにその大きな手を私の肩に置いた。赤いグローブを通して強烈な熱が沁み込んで広がる。
「今なら勝てる気がしないか?」
熱い手が肩から離れる。気付けば、ヒーローは見えなくなっていた。
見えるのは入り口の重たそうな扉だけ。
私の爪先は、彼女に向いていた。
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