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「……友達がいるんです。同じ目標を持って頑張っていた友達」
どうして話そうと思ったのかはわからない。気付けば口が勝手に喋り出してしまっていた。
ここにいるんだと、伝えたかったのかもしれない。
「私は彼女のことを裏切ってしまった」
うちの陸上部は全国でも有名な強豪だ。私と彼女はそこで百メートルハードルを専門に、日々練習に励んでいた。
しかし大事な大会が近づいてきたある日、事件は起こった。部内でエースと称されていた先輩のスパイクが盗まれたのだ。
犯人は彼女だった。そのとき部室にいたのは彼女だけだったから。
彼女は「私じゃない」と言った。でもそんなこと誰も信じなかった。新記録を期待されていた先輩を陥れようとしたのだと誰かが言った。
――私も「そんなの信じられないよ」と言った。
そしてその事件は大会前のひりついた空気を爆発させるには十分だった。部員全員が彼女を責め立て、彼女は部にいられなくなった。
それが間違いだとわかったのは数日後、先輩の友人が謝りに来たときだ。練習ばかりで付き合いの悪い先輩に対するちょっとした悪戯心だったという。
しかしもう、すべてが手遅れだった。
「謝らなきゃいけない。でも許されるわけない。罵られて、殴られて終わるに決まってる。それはきっとすごく痛い」
彼女はもうすぐ転校するという噂を聞いた。
遠くへ行くのだろう。きっともう二度と交わることのないほど、遠くへ。
「彼女はもうすぐいなくなる。それならもしこのまま謝らずに離れてしまえば、傷つかずに済むのかもしれない」
傷をつけたのは私なのに、自分が傷つくのは怖いなんて。
このままなら無かったことになるかも、なんて。
「そんな馬鹿なことを考えて動けない、どうしようもない自分を変えたくて」
そう、怪物はここにいるんだ。
「私は私を倒すために変身したかったんです」
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