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車に乗ってから海に着くまでの十数分は、正直、記憶が無いに等しい。
あんな狭い後部座席で——という表現は葵さんに失礼だけど——和田さんと夏澄さんに挟まれた僕が冷静でいられる訳もなく……緊張で何喋ったのかも覚えてない。
脳裏にある映像といえば、浩二が助手席からやたらニヤニヤしながらこっちを振り向いていたことくらいだろうか。
「海―――ッ!」
記憶に新しいこの匂い。夏に嗅いだそれよりも一段と濃く、空気は一層冷たい。
でも、僕はこの空気を全力で吸った。全力で吸って、染み込んだらゆっくり吐く。
季節外れだって何だって良い。今この瞬間こそが、僕の青春。青春の中心なんだ。
「葵さん、海っつってもここ海岸じゃないスか!普通『海』イコール浜辺っしょ!?」
「なに女々しいこと言ってんのよ。ここから眺めるだけでも十分じゃない。砂遊びでもする気だったの?」
「ちょ!?和田っち辛辣う!」
「やっぱり、友達とのびのび外で過ごすって、楽しいなあ」
「あんたは急に泣かそうとすな」
「いやだって、本心だもん」
「もおおおお夏澄ちゃんってばあ!」
「ちょっと葵さん危ないですって落ちますよ!?」
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