あと三分で喰えますか?

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「それから    妻を愛することが  出来なくなってしまってね」  彼はラーメン屋で隣に並んでいた少年に  そう言った。  外に並べられた六つぐらいの丸椅子。  その全てが順番待ちの客で埋まっていた。  もしかしたら、人気のラーメン屋なのかもしれない。  ふと隣の少年を見ると  中途半端に脱色された黒髪。  華奢な首筋を覆い隠すほどの長さの長髪。  それはビジュアル系の誰かのようだった。 「いきなり何の話だよ、おっさん」 「いや、すまないね」 「あー……まぁ、良いっすけど」  投げやりなのか。  適当なのか。  そんな何も感じないような表情をしていた。  ただ、彼とは対極に存在するような、  なにかを感じて。  思わず、ふとしたはずみで、  どこか運命めいた何かを感じて  喋ってしまったのだった。  少年はピアスを擦りながら、  あーとか、んーとか言っていたが  意を決したのか。  彼の方を見た。 「俺、あんたが羨ましいっすわ」  そんだけ。  そう言って、言葉をしめると  なんとも言わずに立ち上がった。 「ちぇ、もう少しで喰えたのに」  少年は不満げに呟いた。
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