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No.2
「お安い御用です。ド田舎の山猿の10人や20人どうとでもしますよ。その代わり、6か月後には必ず私を日本橋に戻すと約束してもらえますか?」
男どもの物言わぬ挑戦的な目に負けはしない。
ガラスの天井を打ち破ると決めていた。
わざと語気を強め、弱気になりそうな自分の背中を押した。
全員がライバルの封建的男社会で私の応援をするのは私だけだ。
「頼もしいですね。もちろん戻しますよ。満足のいくポストを用意しておきます。グットラック、ハル」
★
薄曇り、東京よりもずっと気温が低い。
山奥田物流倉庫最寄りの廃れた駅前には、古い薬局と小さな郵便局があった。
気圧の影響か朝から頭痛していた。
薬局に入る。薬局というよりも何でもある「よろず屋」だった。
「すいませーん」
「はいはい」
ゴトゴトと物音を立て、奥からジャージ姿で引っつめ髪の中年の女性が出てきた。
「はい、いらっしゃい、こんにちは。どうされましたか?」
「あの、頭痛がしまして」
「はいはい。ご旅行ですか?」
女性は鎮痛剤をカウンターショーケースから取り出しながら聞いた。
「いえ、仕事でこちらに転勤になりました」
「そうですか。ようこそド田舎へ」
女性は少し笑ってから私の顔をジーっと見つめる。
「…何か?」
「食事と睡眠は十分にとれていますか? とても疲れた顔をしていますよ。無理しないで。何かあったら、どんなことでも相談してくださいね」
「あ、はぁ」
確かに異動を言い渡されてからよく眠れずに、食欲もあまりなかった。
複数いる主任の中から私がセンター長に選ばれた理由は、私が唯一の女性だからだろう。
誰も口には出さないが、立場を軽んじられているのが、ヒシヒシと伝わってきた。
リストラを行うための非難の的役、大事になれば、責任を取る役。
問題になれば『トカゲの尻尾切り』をして、経営陣は謝罪だけでいい。
損な役回りを当てつけられ悔しいが、後進の女性社員のためにもやるしかない。
一台だけ停まっていたタクシーに乗り込んで、鎮痛剤を手早く飲んだ。
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