4人が本棚に入れています
本棚に追加
No.3
倉庫までは30分程の道のりだ。
ここ猪野鹿県山奥田村は、長芋の産地だ。
タクシーは長芋畑に挟まれた道を、土埃を巻き上げながら疾走していく。
長芋の収穫はすでに終わっていて、車窓から見える景色は枯れた草と土だけだった。ド田舎を超えるドド田舎だ。
「お客さん、ひょっとして新しいセンター長さんですか?」
丸い鼻の人の好さだけが売りという感じの運転手が、ミラー越しに話しかけてきた。
「ええ? まぁ」
運転手の名前を確認する。『横山タモツ』とある。名前の横にある写真は若い時の物らしく、頭髪が沢山残っていた。
「あぁ、驚きますよね。すいません。娘が、娘の横山ユリが倉庫で働いていましてね。今朝、『今日、若い女性の新しいセンター長が来るんだ』ととても喜んでいたので」
「そうですか」
車の振動が、響く頭が痛い。
「ここは周りを見ても分かる通りに農業が収入の柱です。でもね、若い衆は『農業なんてやりたくない』と村を出て行ってしまうんですよ。爺と婆ばっかりの村になってしまってね。大変です」
「そうですか」
デコボコ道で頭が揺れて痛い。
「あの倉庫ができた時に、鈴鳴薬品さんはこの村から多くの人を雇ってくれましてね、『農業以外の仕事ができる! 村に活気がでる!』って喜んで、村の衆全員で飲み会をしたくらいです。家の娘も中学生の時から『絶対にあの倉庫で働くんだ』と鼻息を荒くしていましたよ。それで去年、高校を卒業して倉庫で働きだしたんです。本当に嬉しかったなー。夢を叶えた娘が誇らしかった!」
「そうですか」
頭が痛いが運転手の話は続く。
同じ様な土色の景色が流れ、山奥田物流倉庫に着いた。昼少し前だった。
大きな山奥田物流倉庫は整然と管理され、築10年が過ぎているとは思えなかった。
エントランスの両脇の花壇にはパンジーとビオラがたくさん植えてある。
エントランスに入ると、作業着を着た童顔の若い女性が待っていた。
「センター長、お会いしたかったです! 初めまして、横山ユリです。会議室はこちらです。倉庫員一同、首を長くして待っています!」
私は一礼して、彼女の後について行った。
会議室のドアを開け、37名の前に立つ。
「皆さん、初めまして。本日よりセンター長を務めます、山田ハルです。本日から6か月後、よろしくお願いしますと言いたいところですが、私は隠し事が嫌いですので、予め全てを皆さんにお話しします」
最初のコメントを投稿しよう!