4人が本棚に入れています
本棚に追加
No.4
従業員の顔を見渡す。まっすぐに見つめる彼らの目線に負けそうだ。
拳を強く握り、勇気を振り絞る。別に何を思われても構わない。私は私の仕事をするだけだ。
「この倉庫は6か月後に、鈴鳴薬品の管理下から笹川急便の管理下に移されます。皆さんには『鈴鳴薬品支店のどこか』で働くか『鈴鳴薬品を離れるか』を選んで頂くことになります。決断は3カ月以内にしてください。また、鈴鳴薬品への残留を希望されても、私の評価次第でお断りする場合もあります。転勤時の支度金、および退職金は社内規定の上限までお支払いします。私からは以上です」
一瞬の静寂の後、会議室は俄かに騒めいた。
茶髪の男性がひときわ大きな声を上げた。
「おい、俺たちがこの村から出ていくことが出来るって思ってるのか? お前、正気か? 親を置いて、農地を放棄して、そんなことが出来るなら、こんなド田舎の村に住まないよ。結局、俺らはクビになるしかねーじゃんかよ!」
会議室はまた静まる。私の反応を見ているようだ。
本社で彼らの再就職先の当てについて下調べしたが、山奥田村には就業できる場所がほとんどなかった。
本部長は『解雇を言い渡すわけではない』と言ったが、実質、そうならざる得ない。
彼らに同情する気持ちを堰き止めるように一段と拳を強く握った。
年配の女性がパンパンと手を叩き、硬直状態を破る。
「こら! 荒井! センター長に失礼な口を利くな!! はっきり言ってもらって良かったじゃない。じゃ、とりあえず昼食にしましょう」
巨大な炊飯器と3個の大鍋が会議室に運ばれてきた。
慣れた手つきで配膳が始まる。小学校の給食の様だった。味噌汁のいい香りが漂う。
「本日はセンター長就任祝いの特別メニュー! ちらし寿司!! 唐揚げと煮物と味噌汁もありますよ。センター長、私の手料理ですが味には自信アリですよ。あっ、私は小山アツコと言います。文句言った茶髪のバカが荒井アキラ。よろしくお願いいたします」
先ほど手を叩いた女性が素早く頭を下げた。私の母親程の年齢だ。ツルンとした顔は血色が良い。
「あ、こちらこそ。あの、食事は結構です」
「そうおっしゃらずに、召し上がってください。私達、毎昼食は自分達で作って食べているんですよ。皆で作って食べる、楽しそうでしょ」
「アツコさん、食いたくないって言ってるんだから、ほっておけよ!」
荒井が苛立ち顔で言う。
最初のコメントを投稿しよう!