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No.5
アツコに山盛りのちらし寿司と唐揚げを押し付けられ、向かい合いに並べられた机に座らされた。
スッと横山ユリが隣に座る。
ちらし寿司を箸にのせて口に運んだ。
(うわぁ、美味しい。特にこの椎茸は滋味が深い)
続けて唐揚げを口に投げ入れる。
(肉汁が逃げていない。生姜風味がとてつもなく良い。ビールが欲しい)
「どう? センター長、美味しいでしょ?」
アツコはニヤニヤして聞いてきた。
他の従業員たちも、どうだと言わんばかりの顔で私を見ている。荒井はこちらに背中を向けて食べている。
「ええ。とても」
「センター長、明日からは毎日一緒にお昼ご飯を食べましょうね」
横山ユリが腕を組んできた。
「え? あ?」
皆の人懐こさに戸惑う私に、「煮物も美味しいですよ」とアツコは煮物の入った小鉢を渡した。
★
二カ月間経った。
日々、山奥田物流倉庫の管理状況、業績や従業員の勤務状況等を調べている。
この倉庫の業務は全般的に素晴らしい。コミュニケーションも円滑で安全活動への取り組みも積極的。組織を解消するのは本当にもったいない。
確かに倉庫を維持するコストを考えると、業務委託した方がダウンするが、現状の徹底した管理が委託先の笹川急便で可能かと問うと、首を傾げたくなる。
薬事部での経験上、医薬品は使用する方の安全のために、コストダウン重視よりも品質重視に徹すべきだと確信している。
また、予想した通り、全従業員から退職の意向も伝えられている。やはり農地や高齢の親を置いて転勤は出来ない、という理由がほとんどだった。
「双方に不利益だなぁ」
一息つこうと事務所の奥にある給湯室でコーヒーを淹れる。
誰もいなかった事務所から賑やかな声が聞こえ始めた。倉庫から誰か戻ってきたのだろう。
コーヒーを持ち、給湯室から出ようした時、私の名前が耳に入ったので慌てて引っ込んだ。
「あれ? センター長がいない」
「おい、ユリ、どう思う? センター長のこと? あの人、いつまで都会風吹かせているんだろうって思うよ。いつもスーツにハイヒール、外車の赤いクーペ、昼は仕事しながらパン食ってさぁ」
横山ユリと荒井アキラだ。
「あたしは格好良いと思うけど。出来る女って感じでさぁ。憧れるわぁ」
ユリは明るい声で言った。
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