No.6

1/1
前へ
/9ページ
次へ

No.6

「そうかぁ? あの格好で倉庫に来るから危ない気がして嫌なんだよ。特にヒール。足を怪我するだろ? 車もクーペなんてさぁ、雪が降ったらどうやって会社に来る気なんだって思わない?」 荒井は早口でまくし立てる。 「あー、荒井、センター長のことが好きなんでしょ?」 この声は小山アツコだ。 「な、な、な! バ、バカ言うな! ば、ば、ばばあ」 荒井はバグりだす。 アツコは自信たっぷりに続ける。 「だって、センター長の心配しているでしょ? それに昼も一緒に食べたいってことじゃないの。仲良くなりたいなら自分から声をかけなさいよ!」 「そ、そ、そ、そ、そんなんじゃないって」 アツコとユリは笑い出した。 (困ったな。出る機会を見失った) いつまでも隠れている訳にもいかない。私は素知らぬ顔をして給湯室から出た。 「!!!」 荒井はそそくさと事務所を出ていく。 アツコとユリも「聞こえました? 聞いちゃいました?」とかなんとか言いながら、チラチラとこちらを振り向きながら、荒井の後に続いた。 私はコーヒーの入った野いちご柄のマグカップを机に置いて吹き出した。 「みんな、かわいいな」 (はぁ、もっと真剣に考えないと、なんとかできないかな? 倉庫を存続して、何とか皆の仕事を守ることはできないのかな?) 椅子に腰かけ、顔を手で覆った。 悩んだ末、奥寺事業本部長に山奥田物流倉庫の優れた管理状態の報告と、倉庫の存続を希望するメールを思い切って送信した。 間髪入れずに本部長から『寝言は寝て言ってください。業務委託は決定事項です。日本橋に戻って来たいのでは?』と返信が来た。 ★ 休日、駅前のあの薬局に行く。 「こんにちは」声をかけると、先日同様にガタゴトしてから、あの中年の女性が出て来た。 「はい、いらっしゃい。あら、この前の。今日はどうされました?」 「あの、今度は胃が痛くて。ホント、参りました」 首を傾げて苦笑した。 「もし、時間があるならお茶でもどうですか?」 「あ、良いんですか? あ……」 「月見と言います。月見ユウです」 「私は山田ハルです。山奥田物流倉庫のセンター長をしています」 「あぁ、あなたが。ちょっと待っててくださいね」 そういうとユウはガタゴトと奥に戻り、茶の用意を始めたらしい。ガチャガチャと陶器の音がする。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加