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No.6
「そうかぁ? あの格好で倉庫に来るから危ない気がして嫌なんだよ。特にヒール。足を怪我するだろ? 車もクーペなんてさぁ、雪が降ったらどうやって会社に来る気なんだって思わない?」
荒井は早口でまくし立てる。
「あー、荒井、センター長のことが好きなんでしょ?」
この声は小山アツコだ。
「な、な、な! バ、バカ言うな! ば、ば、ばばあ」
荒井はバグりだす。
アツコは自信たっぷりに続ける。
「だって、センター長の心配しているでしょ? それに昼も一緒に食べたいってことじゃないの。仲良くなりたいなら自分から声をかけなさいよ!」
「そ、そ、そ、そ、そんなんじゃないって」
アツコとユリは笑い出した。
(困ったな。出る機会を見失った)
いつまでも隠れている訳にもいかない。私は素知らぬ顔をして給湯室から出た。
「!!!」
荒井はそそくさと事務所を出ていく。
アツコとユリも「聞こえました? 聞いちゃいました?」とかなんとか言いながら、チラチラとこちらを振り向きながら、荒井の後に続いた。
私はコーヒーの入った野いちご柄のマグカップを机に置いて吹き出した。
「みんな、かわいいな」
(はぁ、もっと真剣に考えないと、なんとかできないかな? 倉庫を存続して、何とか皆の仕事を守ることはできないのかな?)
椅子に腰かけ、顔を手で覆った。
悩んだ末、奥寺事業本部長に山奥田物流倉庫の優れた管理状態の報告と、倉庫の存続を希望するメールを思い切って送信した。
間髪入れずに本部長から『寝言は寝て言ってください。業務委託は決定事項です。日本橋に戻って来たいのでは?』と返信が来た。
★
休日、駅前のあの薬局に行く。
「こんにちは」声をかけると、先日同様にガタゴトしてから、あの中年の女性が出て来た。
「はい、いらっしゃい。あら、この前の。今日はどうされました?」
「あの、今度は胃が痛くて。ホント、参りました」
首を傾げて苦笑した。
「もし、時間があるならお茶でもどうですか?」
「あ、良いんですか? あ……」
「月見と言います。月見ユウです」
「私は山田ハルです。山奥田物流倉庫のセンター長をしています」
「あぁ、あなたが。ちょっと待っててくださいね」
そういうとユウはガタゴトと奥に戻り、茶の用意を始めたらしい。ガチャガチャと陶器の音がする。
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