No.7

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No.7

薬局の中を見渡すと古い写真が飾ってあった。タージマハルだろうか?  店内をつぶさに見ると至る所にインドの神様がいる。 「お待たせしました」 スパイスと甘いミルクの良い香りがする。 「チャイですか?」 「そう。胃に効くシナモンとクローブを多めに入れてあるわ」 「ユウさんはインドがお好きですが?」 「若い時、この薬局を継ぐのが嫌でね、何年かインドに隠れ住んでいたの。今でもインドの持つエネルギーを思い出すとワクワクするわ。日本人とは生きる気合が違うわね」 「え!? 隠れた? すご! でも薬局を継いだんですね」 「そうね。生まれ故郷を見捨てるような気がしてね。生まれた場所が過疎化して、廃村とか嫌じゃない?」 「分かります。見捨てられないですよね。良くしてくれる皆が困ることが分かっているのに」 私はユウに、自分の思っている事と今の立場を洗いざらい話した。 「会社の言いなりで倫理観なしの仕事して出世して、後進の女性社員のためになるのかしら? 大事なのは、女性でも間違っていることを指摘できるようになる事と、会社に聞く耳を持たせる事じゃないかしら? ガラスの天井を破るってことは、男性社会を迎合した女性の活躍じゃないと思うな。まぁ、結局はハルさんがどうしたいか。突き詰めると『子供の時みたいに、やりたいことをおやりなさい』なんだけどね」 言い切るとユウはチャイを一口飲んだ。 ただの中年女性だと思っていたユウが格好良く見える。 「確かに、会社の言いなり人間には誰も憧れないですよね」 私はチャイを飲み干した。 「皆を助けられるかもしれない方法が、あるにはあるんですが、私の決心がつかないんです」 「まぁ、焦らずじっくりと考えて、ね」 ユウは店先で手を振って見送ってくれた。 (やりたいようにやれば良い、か) 家に着き、胃薬を買い忘れたことに気付いたが、痛みは今朝より良くなっていた。 ★ 「皆さんの将来を私に任せてもらえませんか? と言っても過剰に期待しないでください」 次の日、私は皆を救える小さな可能性に賭けて動き出し、37名の従業員の前で控え目な啖呵を切った。 皆は一瞬ポカンとしたが、快く了承してくれた。 茶髪の荒井だけは心配そうな顔をして私を見ていた。 ★ センター長になり6か月目、私は山奥田物流倉庫員37名分の退職届を預かり、東京都中央区日本橋にある鈴鳴薬品株式会社にいた。 人事部に退職届を提出する前に奥寺事業本部長室を訪ねた。 「山田ハルさん、グイッとやっていますか?」 「ハイ、本部長!!」 「ハルさん、笹川急便への業務委託を難無くやり遂げましたね。コングラチュレーションズ!」
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