4人が本棚に入れています
本棚に追加
No.9
「しっ心配になって」
茶髪をぐしゃぐしゃにして、焦った顔の荒井が言う。
「荒井が心配だって言って出して。私達は付き添い」
アツコは笑った。
「大丈夫。皆は変わらず倉庫で働けるから」
ユリに手首を掴まれる。冷たい手だった。
「センター長も一緒ですよね?」
「会社員はもう懲り懲り。この辺の空き家を借りて古民家でカフェでもやろうかしら。長芋畑の手伝いも良いわね。山奥田村議会議員に立候補しようかしら?」
「やっぱり、辞めたんだ」
荒井は肩を落とし、ユリはそっと手を離した。
「でも、ここに住み続けるのね?」
アツコは明るく言い、荒井の背中を思いっきり叩いた。
「ぐっ、痛、何?」
「荒井、グイグイ行きなさいよ」
荒井は痛みと照れで、何とも滑稽な様子だった。
足元の小石を思いっ切り蹴った。
小石は苗が植わる長芋畑に飛んで行く。
自分の思うようにやってやった。ガラスの天井なんて些末な事はもう気にならない。
清々しい青空を見上げ、太陽を掴みに両手を伸ばす。
憑き物が落ちたように気分が良い。
気持ちが突き抜ける。
なんでもできる、世界だって変えられる。
完
最初のコメントを投稿しよう!