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皿を洗いながら、麻央はため息をこぼした。
今日も今日とて、食べっぱなし、置きっぱなし、散らかしっぱなし。それらを全部片付けていく麻央を見ても、夫も、中学生になる娘も、感謝の言葉一つ無い。いや、気付いてもいないようだ。
皿を洗い終わると、娘の真希がリビングのソファでだらしなく寝転ぶ姿が目に入った。
「真希、早くお風呂入りなさいよ」
「んー……あ、ユニフォーム、泥落ちてなかった。ちゃんと洗ってよね」
真希のスマホをいじる手は止まる気配がない。
二度目のため息を噛み殺したその時、夫の邑仁が洗面所から戻ってきた。
「鏡、汚れてたぞ」
そう言って、邑仁はさっさとソファに座った。これは、麻央が磨けという意味だ。汚れているのは、邑仁や真希が乱暴に水を出して撥ねたからなのに。
今までなら、従っただろう。専業主婦である自分の役割だと思ったし、任せればかえって仕事が増えそうだし、教える方が手間だし……色々な理由が重なった。
だが今はやらない。これからはもう専業主婦ではなくなるのだから。
「自分で拭いて」
麻央がそう言うと、邑仁は眉をひそめた。
「は? 掃除はお前の仕事だろう」
食い下がろうとする邑仁を放って、今度は真希の方を向いた。
「真希も。さっさとお風呂入って。そしたら洗濯の仕方教えるから」
「はぁ? 何で?」
明らかな反発。真希にとって洗濯なんてものは自分のするべきことではない。そう思うような環境にしてしまったのだ。
麻央は思い直した。まず伝えるべきは、この先の決定事項だ。
「二人には覚えて貰わないといけないの。何故なら……」
すぅっと息を吸い込んで、ハッキリとした声で、麻央は告げた。
「私、お母さんやめるから」
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