【独り】

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『マイナス1年生』  それが、中学2年生の僕につけられたあだ名。  体格と運動神経がものを言う中学校の野球部。身長136センチ。この体格のハンデは、多少の努力では補えない。  3年生が夏の予選後に引退し、2年生が主力になる。その頃には1年生に先を越され、練習試合ですら出場機会がない。 「身長も実力も1年生以下の匡康(まさやす)は『マイナス1年生』だ」  新キャプテン伊藤に、そう名付けられた。    祝日の水曜日、金属バットの乾いた音が響く。ヒットよりもエラーが多かった弱小野球部の試合。両軍が一列に並び礼をして、練習試合が終わった。午後から2試合したが、まだ日は高い。  練習試合の遠征先は隣の中学校。このあたりは、ニュータウン化の人口増加で学校が増えた。隣の中学まで30分で歩ける程度。顧問の先生はさっさと車で帰り、生徒たちはぞろぞろと歩く。  50年前、ニュータウン化にて一斉に作られた町。今では人も建物も一斉に老朽化。『自然を残そう』というテーマだった緑地は、管理する人がおらず小さなジャングルの様になり、不法投棄の温床になっている。    都心から離れていることもあり、新しい世代はどんどんこの街から離れていく。その一方で、『都会の喧騒から離れたい』『安い土地で憧れのマイホーム』等と、新たな夢を叶える為に越してくる人も増えている。  ここに留まっている住人と、新たに入ってくる住人の間には、優越感や劣等感、プライドが混在し隔たりを生んでいる。それは、子供達へも少なからず悪い影響を与えていた。
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