尊い犠牲

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 彼女は無理やりといった風情(ふぜい)微笑(ほほえ)みを作ると、ポロンポロンとハープを鳴らしはじめた。ゆったりとした音楽が、部屋の雰囲気をやわらげた。  雰囲気が変わったのを確認して、司祭はナルボン星の歴史を語りはじめた。太古の、神話時代からの物語だ。司祭の語りは非常にたくみで、ところどころにジョークをはさんでくる。地球の一行は、たちまち話に引きこまれ、くすくすと笑いながら聞いていた。  三十分もたったころ、給仕係がワゴンを押して入ってきた。ワゴンの上には、寸胴(ずんどう)のような大きな入れ物と、シチュー用の深い皿が乗っている。  ワゴンがテーブルのそばへ来ると、地球の一行は、おお、と感嘆の声をあげた。大きな容器から、なんともおいしそうな香りがただよってきたのだ。皆、ごくりとのどを鳴らし、給仕が容器からシチューをすくって皿に乗せるのを見つめる。彼らの前に、シチュー入りの皿が置かれる。 「さあ、どうぞ召しあがってください」  司祭がそう言うのを待ちかねたように、彼らはシチューをむさぼりはじめた。 「おお、なんと!」 「すばらしい! こんなシチュー、地球でも食べたことがないぞ!」  地球人たちは口々に賞賛の声をあげた。司祭は、彼らが食べるのを、満足そうに見つめている。 「おや、司祭どのは食べないのですか?」  団長が、となりの席の司祭に(たず)ねた。  もちろん司祭の前にも、新しく配られたシチューが湯気を立てている。司祭はそれに口をつけないばかりか、そもそもスプーンを手に取ることさえしていない。
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