尊い犠牲

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 先ほどのシチューもおいしかったが、今度のシチューはそれ以上だった。とろりととろけそうにやわらかな肉の、なんという美味であることか。  皆、それ以上は話ひとつもせず、ガツガツとシチューを食べていった。  司祭は今度も料理に手をつけず、皿を前へ押しだした。さっきとは別の男が、奪うようにその皿を自分のものにした。  しばらくののちには、全員が皿を空にしてしまった。  一番体格のよい男が、食べ終わった自分の皿を見つめる。その目は、麻薬中毒患者のようにギラついていた。 「あのっ……できればもう少し……もう少しだけ、おかわりをいただくわけには?」 「おい、よせ」  団長がたしなめたが、男はいいわけがましく反論する。 「いいじゃないですか。食事のお返しに、契約条件をゆるめれば、ナルボン星にも利益があるのだし」  彼がなにを言っているのか、少し説明をしなければならない。  地球の一行が、三年に一度の通商契約の更新に来た、ということは前に書いた。更新するときの内容について、彼らにはある程度の裁量権(さいりょうけん)が与えられている。契約を少しきびしい条件にすることもできるし、ゆるやかな条件にすることもできるのだ。  つまり、ナルボン星側からすると、地球の一行を上手にもてなせば、少しばかりおいしい条件で契約を更新してもらえる可能性がある、ということである。
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