尊い犠牲

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 地球の一行は、ひとことも口をきかず、飢えた(けもの)のようにシチューにかぶりついた。これまでのシチューもよかったが、それらをはるかにしのぐ美味である。口の中に、じんわりと肉のうまみがひろがって、しみ込んでくる。食べながら、涙する者もいた。無言のまま、食事が進んだ。  たちまちのうちに、皿は空になった。  司祭が口を開く。 「皆さん、残念ながら、ミートシチューはこれでおしまいなのです。どうかご理解ください」  皆は、はうう、とため息をもらした。食べているあいだは幸せいっぱいの気分だった。だが司祭にそう言われたとたん、幸福感に隠れていた罪悪感が、急激にぶり返してきて、彼らの心をさいなんだ。ああ、おれたちは、なんという罪深いことをしてしまったのか。いまや(いばら)(むち)で打たれる罪人のような気持ちだった。  食後のコーヒーが供された。それを飲みながら、契約の更新について、交渉がなされた。  もちろん、交渉団に与えられた権限いっぱいにナルボン星に有利な条件での更新となった。  契約書にサインをしおわると、地球の一行は逃げるように迎賓館(げいひんかん)を出ていった。二、三日ナルボン星に滞在して、観光してまわることもできたが、だれひとりそんな気分ではなかった。皆、すぐに地球へ向けて出発しようという気持ちになっていたのだった。
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