君は花より朧にて

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彼の顔は見えなかった。ただ、人形のように力なく弛緩していた。 中尾はおじさんの足を肩に乗せて、自分の陰茎をおじさんの穴の中に入れていた。 ぐっ、ぐっ、と中に押し込んでいる最中に私が部屋にやってきたのだろう、汗をかきながら中尾は私に笑いかけた。 「あー……やべー……。安藤さんの中、まじで天国だわ……。この人さ、濡れてたんだよ。股がぐっしょり濡れてたの。ズボン脱がしたらヌルヌルの汁、どばどばで……。だからあそこに指入れたんだけど、それだけじゃあ不満そうな声出したからさ……。あー、めっちゃ気持ちいいわ……腰がんがん振りてえ」 「中尾さん、あんた」 「いや、ヤるでしょ。もうこの人、オメガなんだぜ。圭太さあ……オメガの男って見た事ある?」 「え」 「あいつら、めっちゃ弱いんだよな……。オメガってさ。綺麗な顔の奴多いけど、小さくて力もない奴ばっかなんだよな。なんでか知ってる?あいつら、多分劣等種なの。自分で狩りをすることも、女を抱くこともできないひ弱なケモノだったんだよ……。でさ。劣等種も考えた訳だ。どうやったら自分の子種が残せるかってさ……」 そう言いながら、緩やかに中尾は腰を動かしていく。 わたしは、ただ、なさけなく。 見ていた。 「で、考えた結果。自分も繁殖できるようにした訳。それも、孕む方ね。自分が、メスに種付けできないって悟ったやつが、オスに種付けされる方に進化したんだよ……。だから、発情(ヒート)した時に甘い匂い出したりさ。自然に穴がひくついて、男を受け入れられるようになってるのは、もう仕方ない事なんだよ。オメガってそういう生き物だからさあ。だから、安藤さんもそうなるしかないんだよ。俺の女になるしかさあ」 「そんな、おじさんは、あんたが」 「過程はどうであれ、今なんだよ圭太。俺……安藤さんがベータでめっちゃ残念だったんだよな。オメガなら、いいのに。オメガだったら孕めるし、大体、あいつらは孕ますもんだし。だからさあ……俺、こうなったのは運命だって思ってんだよね。俺、もう、絶対、まじで安藤さん孕ませるわ。そんで、俺の子供ばんばん産んでもらう。もう、それしかないんだよ。そうなるしかないんだよ」 「やめろ、おじさんは」 「駄目だよ。もう、俺がもらう」 「いやだ!」 私は持っていたバケツを捨てて、ベッドに駆け寄った。おじさんが寝ていると思ったからだ。 おじさんを起こせば、なんとかなると思った。 けれど、おじさんは起きていた。 ただ、夢を見ているようにうっとりとしていた。肌がじっとりと濡れている。その、毛穴から花のような匂いが噴き出して。 私はぐらりと立ち眩みがした。うまく、立てない。 「おじさん」 返事はなかった。 代わりに中尾がおじさんの最奥まで性器を押し込み、激しく腰を振りだすと、普段は低くしゃがれた声が甘く、かすれた声になって喘いでいる。 「あ……っ、あっ、あっ!い、いい……っ」 「やっべ、なに、そのエロい声。ああ……もっと、聞かせろよノゾム」 ぱんっ!、ぱんっ!、ぱんっ!、と思い切り腰を引いては突き入れる中尾は完全に雄の顔になっていた。おじさんを征服しようとしている。陰茎を突き入れられる度に、彼はひどく甘い声で啼き、中尾の陰茎を受け入れている穴からはせわしなく、水音がしている。 「あ……、くる……っ、奥が……へんだ……ああっ!」 「なあ、ノゾム、ノゾム!俺達、結婚しよ!なっ、噛んで良いだろ、噛んで、夫婦になろうぜ!」 「あ……っ、ふうふ……?」 「そうだよ、夫婦!あーー、出る出る!ノゾムの中に出すからな!孕めっ、孕め」 「あつい、あつい……!あついのが……」 「俺の精子、子宮で飲んでくれよノゾムッ……」 そう言いながら中尾は彼に口づけをした。 起きているのか、夢の中なのか。意識が虚ろな様子のおじさんは、素直に口づけを受け止めてそれから口の中に舌を入れられた。ぬちゅ、ぬちゅ、と唾液を交換し、飲み合う二人は対面座位になり、おじさんは胡坐をかいた中尾の上で、緩やかな腰遣いで犯された。「ああ……」ととろけた表情を隠さない彼の吐息は完全に、充足していた。自分が求めていたものが、手に入った。そんなような声だった。 そんな彼のうなじを、中尾は執拗に舐め、匂いを嗅いだ。そして。 「いいよな、いいよな?噛んじゃって構わないだろ、ノゾム……」 と呟いて、歯を当てた瞬間、ぐっと中尾の首がのけぞった。 「い……良い訳あるか、このバカタレがっ!」 そう言って叫び、いささか正気に戻ったおじさんの右手は中尾の髪を掴んでいた。自分の項を噛もうとしていた男の髪を掴んで、無理矢理自分の項から中尾を遠ざけた彼は、いつもの、しかし上気した頬のまま、中尾を睨みつけた。 「お前は、何をしてんのか、解って……」 「解ってるに決まってるじゃないですか、安藤さあん……。俺達、今繋がってますよ。解ります?あんたのあそこに、チンポ入ってんですよ。しかも、さっき、俺のザーメン、出しちゃいましたから。孕んだかもしれないですね」 「中尾!」 「いいんですか?続き、いらないんですか?このまま、いけないまま、生殺しでも俺は構いませんけど」 中尾はわざと小刻みに腰を揺らした。途端におじさんは「うっ」と短く叫んだが、慌てて唇を噛んで声を押し殺した。 自分の内部に深く刺さった陰茎を彼は疎ましく思ってはいないようだった。
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