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天皇賞春から4ヶ月後、シップウヤシャのレースがいよいよ始まる。G2の札幌記念だ。おそらく陣営は天皇賞秋を視野に入れているのだろう。同じ2000メートルの札幌記念で力試しをしてそれからは天皇賞秋に向けて調整か。年上のベテランの馬もいるけど、ヤシャの実力ならきっと大丈夫。固唾を飲んで見守る中、レースはいよいよ終盤に近づいてきた。先頭を譲らない勢いで差を広げようとするベテラン馬に対し、シップウヤシャも懸命に追いつこうとする。
『シップウヤシャ今回も力強い猛追を見せる! おおっとシップウヤシャ差し切った!』
「いけ。いけ」
私は手を握りながら呪文のように言う。シップウヤシャはゴール手前でベテラン馬を抜かし、勝利した。
『シップウヤシャの快進撃は誰にも止められないのか! ここ札幌の地でも勝利をつかんだ!』
「すごい! おめでとう!」
私はテレビの前で拍手した。まだ陣営は天皇賞秋へ出走するとは言っていない。でも、もし出走するつもりならいける。秋の京都でも通用する。天皇賞春秋連覇も夢じゃない。ここから先のヤシャの行く道が楽しみで仕方がなかった。そんな高揚を胸に抱いていた矢先のことだった。
「えっ……」
私はスマートフォンを床に落としてしまった。そんな。ヤシャが……怪我? ヤシャが調教中に足を怪我してしまったらしい。幸い安楽死にならずに済んだが、次に出走する予定だった天皇賞秋は見送ることになった。札幌記念の後も厩務員さんのSNSの写真ではあんなに元気そうだったのに。なんで。頭の整理が追いつかない。ヤシャの怪我が一日でも早く治ることを祈るしかなかった。
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