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姉の悠里は、一つ上。
元々、しっかり者で、何でも出来て、おまけに美人。当然のように、周りからの信頼は厚かった。
俺は、姉とは全然違って、だらしなくて、出来が悪くて、調子が良いのだけが取り柄みたいな、悪ガキだった。
でも、中学生になって、姉の背を抜かすと、嘘みたいに背が伸び続けた。それで調子にのって髪型や服装に色気づいたら、モテ始めた。天然イケメンでは無いけど、養殖イケメンの枠を死に物狂いで死守していた。
毎日、チャラい話しかしない俺を、母と姉は呆れながらたしなめていたけど、俺とそっくりな父は楽しそうに、「俺も雄大と同じ年の頃は…。」ってウソかホントか分からない武勇伝を披露していた。
家族は仲が良かった。ケンカもしたけど、ちゃんと仲直りもした。
普通の、友達の家族と大体同じようなもんだと思っていた。
だから、両親が亡くなっても、二人きりの家族になっても、仲のいい姉弟だった。
俺は、そう思って高校までを過ごしていた。
なのに、姉は、一人で苦しんでいたんだ。
こんなに近くに居たのに、姉の苦しみに、俺は何一つ気が付かなくて、本当のバカだった。
「雄大と悠里さんって顔も性格も似て無いよね。」
いつか、2ヶ月だけ付き合った彼女にそう言われた事があった。
「それ、禁句。どうせ俺は、頭も顔も性格も、姉ちゃんには敵わないですから。母さんのお腹の中で姉ちゃんに全部いいとこ持ってい行かれたんだよ。残ったのは、この身長だけです。」
「悠里さんって、どっちに似てるの?お父さん?」
「二人のイイとこ取りだから、どっちって訳でも無いけど…。これ以上、この話題、続けると、俺、スゲー不機嫌になるけど良い?」
この頃、優秀でキレイな姉と比べられることにうんざりしていた俺は、決まってこんな風に不機嫌になって、話題を逸らしていた。
誤魔化してだけじゃなくて、ホントにそう思っていたし、優秀でキレイな姉を疎ましく思いながらも、自慢でもあった。
だから、姉だけが血のつながらない、赤の他人だなんて、思う余地も無かった。
姉は、俺が1歳の時に養子に入った両親の親友の一人娘だった。
姉の両親もまた、不慮の事故で亡くなったそうだ。
姉は、中学に進学した頃、偶然その事実を知り、俺には教えない事を条件に全てを知った。
そんな子供の頃から、密かに自分の存在が不運を運ぶのではないかと恐れていたら、育ての両親までも事故で亡くした。いよいよ怖くなり、今度は俺を亡くしてしまうのではないかとずっと恐れていた。
だから、俺が高校を卒業した翌日、何も言わずに家を出た。
それ以来、もう3年。この家には戻って来ていない。
一通の手紙だけを俺に送りつけて。
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