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榊原はなんだか誤魔化すみたいに笑った。
「彼女欲しいんじゃねぇの?」
春樹の言葉に、もう榊原は答えなかった。困ったように笑っている。
「ならさっさと退部すりゃいいじゃん」
「お前、思いやりねーな」
唐突に発された言葉が、自分に向けられたものだと、初め春樹は気づかなかった。
「は?」
鋭い目に見下されている……と気づいた時には、もう男はきびすを返し、自分の席についていた。
同じクラスの石和だった。背が高くて無口なやつで、これまでほとんど話したことはない。
「何今の」
信じられなかった。驚きのあとに、じわじわと怒りが沸き上がってくる。バカにされたのだ。それも、通りがかりに。
「何なんだよ今の」
行き場のない怒りで頭が熱くなる。石和のことはよく知らない。だけど石和だって春樹のことを知らないはずだ。ろくに話したこともないのだから。
「さぁ」
「何あいつ……!」
榊原も斉藤も、驚いた風ではあったけれど、俺のようには怒っていなかった。どちらかというと事態を面白がっているようにも見えた。
「ムカつくんだけど」
「まぁまぁ」
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