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「……やっぱりあれ根に持ってんのか」
石和は大げさにため息をついた。春樹も百七十センチはあるが、それでも石和の方がコンパスが長いので、やや速めに歩かざるをえない。女の子が合わせるのはもっと大変だろうなと思う。
「変なこと言って悪かった」
石和はまるで悪いとは思っていない口調で言う。
「別にー、気にしてない」
「嘘つけ」
「いつもまっすぐ家帰んの?」
石和はむっすりと黙りこんでしまった。
「バイトしてる? 部活はやってないよな?」
「あー、もううるせぇな。この間のことなら悪かったから」
「だから、気にしてねぇって」
駅前のロータリーまで来たところで、石和は急に立ち止まった。
「あ、俺今日は用事あるから、じゃあな」
「は?」
石和は軽く手を上げると、人混みに紛れるようにして駆け去っていった。
逃げられた。背の高いその背中が見えなくなるまで、春樹は呆然と立ったままでいた。
・
「逃げられた」
「ふーん」
「足早いな、あいつ」
「元バスケ部らしい」
「え? マジで?」
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