春より早く

9/87
前へ
/87ページ
次へ
 それは先週、春樹がミナと一緒に行ったカフェだった。その写真のテーブルの向こうには春樹がいたはずだ。  手を伸ばそうとすると、斉藤はまたスマートフォンを自分の手元に戻してしまった。ミナがこんな風に、自分と過ごしたことを発信しているとは知らなかった。 「もっと見たい?」 「いや、驚いたけど別にいいや」  何が書いてあるかは想像がつく。何がおいしいとか、テレビが楽しいとか、新しい服がかわいいとか、きっとそんなことだろう。 「なんでそんなに石和のこと気になんの?」 「気になるとかじゃねぇって」 「珍しいよな、春樹がこんなに誰かにこだわんの」 「俺かわいい女の子にはこだわるし?」 「はいはい。振られたら三日で忘れるくせにな」  斉藤は春樹の方を見もせずに言う。不満ではあったけれど、それ以上は何も言わなかった。  別れた女の子のことはあまり考えたりしない。それは事実だった。振られたときでも振ったときでも、春樹はあまり引きずらない。美徳だと思うのだが、誰も褒めてはくれない。 「だって覚えてたってしょうがないじゃん」
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加