オレの仕事はここまでだ。帰るぞ

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 気配を完全に消したオレが向かったのはテオドールの部屋だ。机の上にいくつかある紙、羽のペンを取って、傍にある報告書を元に奴の書きグセをトレースする。これを封蝋で閉じてやる。  偽手紙はこれでよし。  次はマリアの部屋だ。テッヘルブルク大公国の封蝋をついた封筒を5枚ほど作る。中身はない。  あとは帰国するだけだ。  翌日の夜明けから少し経って、アストロは母国へ向けて出発する。見送りに来たのは金目のクリサとマリアだけだった。 「マリア、このあとどうするんだ?」 「残党の掃討がまず第一ね」 「いや、その後だよ。向こうの大陸へどうやって行くつもりだ?」 「今のところ、大規模船団を作って一気に攻め込むつもりだけれど……」 「ま、そんなところだろうな。やるとすれば敵上陸地点からスタートでいいのか?」 「そうね。メネルブルクの海岸からになるわね」 「そうか。ま、一応報告しとくわ。じゃ、達者でな」  馬一頭と共に、アルスガルトから荒野を駆けてシエナ王国へ向かう。  ひと月ほどでその旅は終わった。シエナ王国の王都までの長い道のりはようやく終わりを迎えた。 「止まれ、何者だ」  王都の門番が彼の侵入を拒む。 「テッヘルブルク大公国はマリア様の使いの者だ。シエナ王に戦況報告に来たのだ。通してくれ」 「魔王軍討伐の? その証はあるか」  アストロはテッヘルブルク大公国の封蝋をついた封筒を見せる。 「公女からの文だ。信じてもらえるかな?」 「おお、大公国の紋章……間違いない。通ってくれ」  なぜこんな面倒なことをするかというと、ステルス性能が高すぎて国民には王子の顔がほとんど知られていないのである。影が薄いとかじゃねーから。
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