円満退職

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 口を差し込んだ彼女は、金目のクリサ。『金目の』は二つ名であり、その名の通り彼女は金色の瞳を持つ。大陸北西部、アイゼナハト王国の勇者である。 「何もパーティから外すまでしなくても」 「いや、リーダーの言う通りだ。オレはこのパーティにいたところで何の役にも立たない。旅費だって嵩むし、リーダーの言うことに間違いはない」 「まー、おにいちゃん、今回の幹部討伐の時も自己強化してたら討伐終わってたもんね。しかたないね☆」  屈託のない笑顔のまま悪気なく言うのは妹のアンネロッテだ。  こいつは大陸最強の魔法使いとしてパーティに加わった。わずか12歳で前線に立ち、敵地を更地に変えてきたメスガ……バケモノだ。  魔法は、大地からマナを吸収し、体内に留め、制御し、放つことで使うことができる。この4つのステップが全て正常に機能していなければ使うことはできず、それ故に魔法使いは大陸の人口の1%にも満たない。更に戦争に使えるレベルの魔法を扱えるのは1000人に1人もいない。 「何もできないなら仕方ないよなぁ?」  肩を震わせ必死に笑いをこらえながら言うのは、大陸東を領土とする超大国、デルグント王国の王子、テオドールだ。剣の腕は王国随一で、魔法もそれなりに腕が立つ。能力的には劣化マリアだが、それは汎用かつ十分に強いことを意味する。 「私はどうでもいいんだけどぉ、本人が了承してるなら止める必要はないわねぇ」  大陸西部、ヘルツォンラント大公国のイーリス教会聖騎士団長ヴィスカーは同調する。聖騎士と言うより性騎士な気がするが何も言わないでおく。  彼女の騎士団の助力なしでは大陸南西部の奪還は成しえなかったであろう。彼女自身も剣や棒を握らせたらかなりの強者だ。何の棒かは触れないでおく。 「我々にお任せください。アストロ王子には国を治めねばならない使命があります故。国を、民を安んずることこそ、王子のなすべきことです」  真面目に言うのは大陸北部にあるテッヘルブルク大公国の英雄、ライラントのラインハルトだ。彼は、魔王軍が攻めてきたどさくさに紛れて侵略行為を働いたアイゼナハト王国軍に立ち向かい、一人で二千の兵を退けたと噂される英雄である。  こんな連中が集う、まさにアストリア全土から結集した最強のパーティだった。  事実、魔王幹部ギルスはたったの2分少々で撃破されてしまった。
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