オレの仕事はここまでだ。帰るぞ

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 王都の真ん中、シエナ城に入るにはちょっとしたコツがある。正面の門には門番がいて、門は閉じっぱなし。アポイントがなければ入ることはできない。  見張りの居ない場所など、住んでた者からすれば当然把握している。城の盲点をついて、壁を登ったところにあるバルコニー。この時間ならガラスの向こうに居るはずだ。  外から手を振ると中の人物が気付く。その顔は暗闇に灯した蝋燭の様にぱあっと明るくなった。彼女は窓を開けて王子を中に入れた。 「お久しぶりにございます、アシュティ」 「いつも感謝してるぜ、クラーラ。父上は玉座の間に居るか?」 「はい。そのはずです」 「ちょっと行ってくる。オレの部屋、準備しておいてくれ」 「かしこまりました」  彼女はいそいそと王子の部屋を快適にする準備に取り掛かった。  王子は玉座の間にて王と謁見する。 「ただ今戻りました、父上」 「ほう……アストロか。また裏から入ったな? 堂々と前から入ってこいと、いつも言っているではないか」 「私が正面から入ると門兵の命がいくつあっても足りませぬ故。私の顔が覚えられなかったために火炙りにされた兵が何人いることやら」 「そんな者はひとりも居らんがな。で、お前はなぜここに戻って来た?」 「パーティをクビになったからです」 「はははははっ!! 大方そんなところだろうと思ったわい。…………で、本当のところは?」 「私が戻ったのは父上に進言するためです」 「申してみよ。魔王軍撃退の功績を抜けてまで、我に何を言いに来た?」 「…………今すぐ国民の多数をアルスガルトに差し向けるのです」 「理由はなんだ」 「アルスガルト、いやアストリア南西部は温暖で土地が豊かです。魔物に占領されていたとはいえ、耕せば立派な農地になることは必定。今、あの地域にはほとんど人が居りません。  我が国民が復興支援の名目で大量移住をして、あの土地を戦わずして占領するのです。さすれば、あの地域の支配権は我が国が取ったも同然。  食料の増産はもちろん、我が国民がかの地で繁栄すればこの大陸に覇を唱えることも可能となりましょう。二方向からヘルツォンラント大公国を攻め、テッヘルブルク大公国と共にアイゼナハト王国を平らげ、シエナ王国がアストリアの大部分を制すればデルグント王国にすら勝ち得るでしょう」  王は肩を震わせている。その直後、笑いに笑った。 「我が息子よ、面白い! 早速手配しよう!」  王は玉座から降り、臣下を呼び集めるよう側仕えに命令した。  王子は一礼し、その場を離れ自室へと戻った。
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