走り出す〜かんだがわ〜

10/10
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 その場はてんやわんやでしたが、結局何事もないまま銭湯を後にしました。  気まずさが、半端ありません。龍之介の母親も風呂場ではあんな事言ってたけど、雰囲気を察したのか「あらあら、まあまあ」って顔で黙って見ています。  兄貴は、さっきから一言も口を聞いてくれません…。と思っていたら、やっと口を開きました。  「…みな君の気持ちは、よく分かった。ちょっと驚いたけど、広い意味で兄離れしたようでお兄ちゃんは嬉しいよ」  「あ、兄貴。だから、それは誤解で…」  「今、考えてたんだけど…。龍之介くん、『宇賀神の屋敷と財産が欲しい』って言ってましたよね?確かに長子であるぼくは、多めに相続をします。でも、実際には土地屋敷その他管理が面倒なものばかりです。それよりも、現金や預貯金として手に入るみな君の方が色々と気が楽では?」  「ちょっと、心躍るその一言」  龍之介が、のうのうと言ってくさりました。おいおい、そこは心躍ってんじゃねーよ!お前は、兄貴に惚れてたんではないのかい。  「あと、みな君が将来どのような道に進むか分かりませんが…。多分、叔父の会社で重要なポストを任されます。龍之介くんについても、叔父に口聞きをしてもいいでしょう」  「みなとさん!結婚を前提に、お付き合いしましょう」  そう言って、腕を組んで身体を寄せて来やがった。母親の前で、何言い出してんだこのガキ。ってか兄貴、龍之介をおれに押し付けて厄介払いしようとしてない…?  「家には腐るほど部屋があるので、ご結婚後も住んで下さって結構ですよ。屋敷を相続するのと、大きくは変わらないでしょう。以上です。ふつつかな弟ですが、よろしくお願い致します」  兄貴はそれだけ言うと、スタスタと歩いて帰り出した。いやいやいや、そりゃないわ。お母さんが家に帰ってきたら、何て説明するんだよ…?  「よろしくね、みなとお兄さん。いや、お兄様って呼ばせて頂いていい?」  駄目に決まってんだろ!でも、そう言って媚を売る龍之介を見ていると、やっぱりちょっとだけ可愛いかなと思った。…って、ほだされてどうする!  「そ、そりゃないぜ。待ってよ、兄貴ー!」  おれは、龍之介の手を振り払い兄貴を追って走り出した。  とほほ、銭湯はもうコリゴリだよー(あ、でもやっぱり風呂場もリフォームするらしいので近いうちにまた来ます)!
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!