6 祈りで気づく、未来のわたし

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6 祈りで気づく、未来のわたし

 しばらく見つめ合っていた。  お互いどう声をかけるべきかわからなかったのだ。  ──   不安がよぎった。聞かれたのだろうか。  瞬間、わたしは「捧げ」のポーズを解いて微笑んでみせた。  とっさに演劇部に入ったふうを装うと思ったのだ。 「演劇はじめようかなって思って、セリフの練習したくなっちゃって」  彼氏はいぶかしがっていたけど、わたしがそう言うと安心してため息をもらした。 「迫真の演技だからびっくりした。なんか召喚士みたいだったよ」  チャンスだと思った。このタイミングで無害な不思議ちゃん要素があることを認識してもらえれば「捧げ祈り叫び」しやすくなる。 「今のセリフ、わたしが考えたの。かっこいい?」 「うんうん、かっこいい。すごい召喚獣でてきそうだった。おれもやりたいくらい」  わたしはいいよと言って、拳の組みかたとセリフを教えた。  そしていっしょに叫んだ。 「」  笑いながら、スッキリしていいねとか、さっきはもっと迫力がすごかったよ、と彼氏は言うけど、さっきは「生死」がかかっていたから実力以上がだせたのだ。  事実を理解してもらうのはむずかしいだろうなと思って、わたしは背景にある理由はふせて話した。 「毎月ね、0と5の付く日の15時に全力でやることに決めたの」 「なんか○天ポイントデーみたいだね」 「○天ポイント集めてるし、忘れないように決めたの」 「マリって、役者さんになりたかったの?」  彼氏が不思議そうに聞いてくる。そういえばじぶんが将来どうしたいか話したことなんてなかった。彼氏ともトモとも家族とも。わたしはなにをしたいんだろう。 「変なこと聞いちゃったかもしれないけど、でもね、マリの熱量すごかったよ、ホントに」  彼氏が熱っぽく語ってくれる。  わたしは生きるために「捧げ祈り叫び」した。今のじぶんができるベストをぜんぶそそぎこんだ。それって仕事でもおなじなのかな。「捧げ祈り叫び」って仕事みたいなものなのかな。お父さんもお母さんも、今のじぶんにできるベストをぜんぶそそぎこんでいるのかな。やりかたこそちがうけど、生きるかぎりだれもが「捧げ祈り叫び」しているのかな。  わたしのむねの奥では鼓動を打つ心臓がぐるぐる地球みたいに回転している気がしてきて、わたしは彼氏にキスして、じぶんから手をつないで走りだした。 「マリなんか急に変わっちゃったみたいだね!」  声をはずませながら彼氏が言う。 「そうだよ、召喚士だからね!」  わたしはそうこたえて、あのクマのぬいぐるみを思い出した。
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