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(承)
そうして吹っ飛んだ金髪美女は後ろの壁に激突する寸前にボフンッと音を立てて煙と化した。その煙が消えると、蝙蝠のような翼を生やした毛むくじゃらの猿そっくりの怪物が、尻尾を振り振り耳障りなカン高い声で喚いた。
「どうして分かった!?」
分るわ。僕は内心あきれてそいつに言った。
「残念だったな。というより、男を誘惑するのに金髪美女とか、いつの時代だ。どうやら夢魔のようだが、魔物といえども色々アップデートしたほうがいいんじゃないか?」
「うっせぇな、いいんだよ!最近まで北米にいたんだから……ってか、そんなに余裕ぶっこけるのも今のうちだぞ。何故なら、貴様は7日以内に死んじまうんだからな。俺に魂を吸われてな。ヒヒッ」
* * * * * * * * *
「……夢魔ってあれだよな、寝ている女を誘惑して孕ませたり、男の精液搾り取ったりするとかいう……漫画か何かで読んだことあるけど、魂吸うってどういうこと?ってか、死ぬ!?何でそんな冷静なんだ、お前」
あまりにも突飛な話で、正直どこから突っ込んだらいいか分からないが、目の前のこいつがあまりにも淡々と話すからマジレスせざるを得ない。
「魔物業界にも色々あるらしいよ。で、生者の魂を奪うにはその精神を完全に屈服させる必要があるらしくて、それにはやはり性的な誘惑が手っ取り早いようだ。この世のものとは思えないような快楽を与えて忘我の境地に導いたところでズルッと吸い取るんだって」
「……」
吸い取るんだって。じゃないだろ。慌てろ。クール過ぎるにも程がある。そう言うと、
「ナミヘイさんも言っていた。"慌てた時ほど落ち着いて"、と」
誰だよ、ナミヘイって。もしかして、頭頂部に毛が1本の国民的マンガの彼のことか?大体、何でお前が狙われるんだよ。
「童貞だから、かな?ドラキュラも処女の生き血しか飲まないと言うし」
「…………」
「正体を見破られたらとっとと消えればいいのに、さっき言ったことをくどくど説明した挙句、とりあえず7日間誘惑を退けられたら僕の勝ちにしてやるって恩着せがましく言われたよ。何なのかな、勝手に押しかけてきてあの強気」
お前のクールさこそ何なんだよ。
正直、いきなりこんな話を振られて信じられない気持ちはある。ただ、コイツはつまらない冗談を言って他人をからかう奴じゃない。目の下の隈を見る限り、妄想にしろ何にしろ、苦しんでいるのは事実らしい。俺は黙って話の続きを待った。
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