高校時代からの親友が夢魔に目をつけられて、もう余命3時間だと言ってきたんだが。

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 (転)  夢魔とのバトルは続いた。奴は2日目の夜はストレートロングの黒髪が艶やかな楚々とした和風美女、3日目は奇跡的な可愛さで人気のアイドルタレントに化けて現れた。どうやら僕の意見を取り入れてアップデートに励んでいるようだった。  もちろん僕だって対抗したさ。まずは眠るまいと頑張ったが、どういう仕組みか深夜12時直前に眠りに落ち、そして日付をまたげば自動的に目が覚めて夜明けまで誘惑タイムが続くんだ。  神仏頼みもした。教会でもらった聖水を撒き、神社でお祓いを受け、お寺でお札を求めて部屋中貼りまわった。しかし根本的なところで信仰心がないせいか、何一つ役に立たなかった。それどころか夢魔の奴、4日目には僕が昔好きだったアニメのキャラを3D仕様で出してきた。覚えてないかな。ほら、ピュアスカ☆ポリスのスミナちゃん……。 「記憶を読んだのさ」  キヒヒと夢魔が笑って言った。 「魔力を消耗するからあまりやりたかないんだけどな。オレにここまでさせる奴はなかなか居ないぜ。たいしたもんだ。だが、いいことを思いついた。もうお色気バージョンは止めだ。明日、とっておきを出してやるからお楽しみにな」   * * * * * * * * *  「何を出してきたんだ?」 「…………母だ」 「!!」  病弱で、彼が幼い頃に重い病にかかり若くして亡くなってしまったという母親。高校の時に彼の家でその遺影を見たことがあるが、線の細い、儚げな美しさのある人だった。 「5日目はまだ日常生活は何とかこなせる時の母で、6日目は入院後の姿だった。何かするわけじゃない。ただ優しく微笑んで腕を差し伸べてくるだけだ。分かっちゃいるけど……罵ることも蹴り倒すことも出来ない。もう心が引き寄せられないようにするので精一杯だ。気を許せば持っていかれる」  彼は弱々しい笑みを浮かべて言った。 「恐らく最終日の今夜は死ぬ間際の母の姿で来るだろう。そして僕はその手を振りほどけない……だからさ、君に頼みたいことがあるんだ」  そして彼はテーブルの上に鍵のついたキーホルダーを置いた。 「明日の朝、僕がどうなっているか家に来て見てほしい。生きていればただの笑い話だ。でも、もし万一のことがあれば……アパートの解約手続きをお願いしたい。片付け掃除は済んでいるし荷物もほぼ箱詰めしてある。連絡してほしい先もメモしてあるから……」 「何言ってんだ、馬鹿!弱気になんなよ!分かった、俺も今から一緒に行くから……」 「駄目だ!」  強い口調ではねのけられた。 「お前まであいつに目をつけられたらどうする!?僕のせいで君に迷惑はかけたくない」 「大丈夫。俺、童貞じゃないから」 「そういう問題じゃない。それはあくまでも僕の考えに過ぎないから。……本当は君には会わず、いきさつを書いた手紙を送るつもりだった。でも、おかしくなったと思われたまま終わるのは嫌だし、やっぱり最後に顔を見ておきたかったから……会えて良かったよ。明日には笑い話になるように祈っていてくれ。あ、0時まであと2時間切った」  そう言って無理に笑う彼の顔を、俺はただ見つめることしかできなかった。    
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