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(起)
深夜、何とも不快な重苦しさを感じて目を覚ますと、一糸まとわぬ金髪美女が妖艶な笑みを浮かべ、僕の上にまたがっていた。
「ねえ、私といい夢見ましょ……?」
獣のように四つん這いになり、ねっとりとした視線で僕の顔面を舐め回しながら、じりじりと顔を寄せてくる。
照明を落とした暗い部屋にも関わらず、アメリカの某有名男性誌から抜け出してきたような、ゴージャスに波打つプラチナブロンドの髪と非の打ちどころのない美貌を備えたスーパースペシャルダイナマイトボディがはっきりと見えた。滑らかな手のひらが僕の頬から首すじをしっとりと撫で下ろす。ぽってりとしたセクシーな唇から漏れてくる吐息が甘い。
世の男性の理想を具現化したような女性だった。高くかかげた丸い尻の向こうに見える、先端が矢尻のようにとがった形をした黒い尻尾さえ無ければ。
* * * * * * * * *
「……で、どうしたんだ?」
「布団を剥ぎ取って、そいつの腹に全力の蹴りを入れた」
「そうか…それは痛かったろうな……」
軽快なBGMと学生コンパらしきグループの騒ぎ声に満ちたチェーン系居酒屋の店内で、俺は目の前で静かにウーロン茶を飲む友人を見つめた。今でこそ物静かな知的メガネという見てくれをしているが、その昔、強豪と知られる高校のサッカー部で"クール過ぎる副キャプテン"と恐れられた男である。その渾身の足蹴はさぞかし痛かったことだろう。彼の話が本当のことならば、だが。
その晩、俺は高校時代からの親友である彼に呼び出され、互いの家の中間地点にある駅近の居酒屋にいた。1年の時に同じクラスになったのがきっかけでつるむようになり、その後、進む大学も就職先も別になったが、今でも年に1~2度はこうして会って旧交をあたためている。今日も、先に店に入っていた彼にいつも通り「よぉ」と片手をあげて声をかけて向かいの席に座った。そして注文してすぐに届いたビールを一口飲んだ後に、世間話をするような何気なさで言われたのである。
夢魔に取りつかれてしまって、もう余命3時間なんだ、と。
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