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 流れ星を見た。その瞬間、僕はどうして空を見上げたのか覚えていない。ただ、夜の空を横切る一筋の光に僕は目を奪われていた。  十字山(じゅうじやま)の方へと光は流れていく。あの山まではそう遠くはない。僕は自転車の向きを山の方角へと向けると、右足が乗ったペダルに力を込めた。  僕たちが住む町にある小さな山である十字山までは、ほんの数分で着くことができた。幼い頃から数えきれないほど遊びに来たこの山は、暗がりの中でもどこにどの道があるのか頭に入っている。  山の頂上まで自転車を漕いでいくと、森の中から光が漏れていることに気が付いた。あの場所に街灯なんてないはずだし、何か建物ができたという噂も聞いたことがない。  頭の中で「何か危険なような気がする」と僕自身へと警鐘を鳴らす声が聞こえたが、僕はゆっくりと光の方角へと足を進めた。  足を進めながら「さっき見たのは、流れ星ではない」と漠然とだが僕はそう思っていた。本当にあれが流れ星で、この十字山に落ちたのならば何の衝撃音もないなんておかしいだろう。  ただ、流れ星ではなかったというのならば、何がありえるだろう。頭の中で可能性が高そうな答えを一つ思い浮かべながら、僕はそれを否定できる答えを探していた。
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